パティシエをしていると、「洋菓子のことなら何でも知っているんですよね」と言われることがあります。
でも、実際はそうでもありません。
私はこれまで23年ほど、洋菓子の仕事に携わってきました。
お菓子を作るための技術や材料については、仕事を通して少しずつ知識を積み重ねてきました。
それでも、「このお菓子は、いつ、どこで生まれたのか」「なぜ、こんな形になったのか」と聞かれると、改めて調べてみないと分からないことがあります。
パティシエが知っているのは、洋菓子の「作り方」だけではないでしょうか。
もちろん、それも大切な知識です。
小麦粉や卵、砂糖、バターなどの材料をどう扱うのか。
どんな配合にするのか。
どの温度で焼くのか。
生地をどう仕上げるのか。
現場では、こうした「どう作るか」を考えることが多くなります。
でも、洋菓子にはもう一つの面があります。
それが、「なぜ、このお菓子が生まれたのか」ということです。
例えば、私たちが当たり前のように食べているショートケーキやシュークリームにも、それぞれの歴史や文化があります。
お菓子は、単に材料を混ぜて作られたものではありません。
その土地の食文化や生活、行事、人々の好みなど、さまざまなものが関係しながら形を変えてきました。
そんな洋菓子の背景を改めて知るきっかけになったのが、メイツ出版の『知ると楽しい! 洋菓子のひみつ 甘く華やかな西洋のスイーツ文化』です。
面白いのは、この本が子ども向けの学習書だということです。
23年もパティシエをしてきた私が、子ども向けの本を読む。
最初は少し不思議な感じもします。
でも、読んでみると、これがなかなか面白い。
この本では、洋菓子の基本的な知識から、行事や祝日に食べられる伝統菓子、日本に伝わった洋菓子、身近なお菓子のルーツ、世界各地の洋菓子文化まで、幅広く紹介されています。
専門的な製菓技術を詳しく解説する本ではありません。
だからこそ、「洋菓子そのものを知る」という視点で読むことができます。
パティシエとして仕事をしていると、どうしても「どう作るか」に目が向きます。
例えばシュークリームなら、シュー生地をどう膨らませるか、どのくらい焼き込むか、クリームをどう仕上げるか。
これは、パティシエにとって重要なことです。
でも、「そもそもシュークリームは、どんなお菓子なのか」と考えてみると、見えてくるものが変わります。
お菓子の名前や形を知るだけでも、その背景には歴史や文化がある。
そして、その背景を知ることで、普段作っているお菓子を少し違った角度から見ることができます。
私は、こういう「知ること」もパティシエにとって大切なことだと思っています。
お菓子を作る技術は、経験を積むことで身についていきます。
一方で、お菓子について知っていることが増えれば、自分の中にある「引き出し」も増えていきます。
「このお菓子には、こんな背景がある」
「この国では、こんなふうに食べられている」
「この材料が使われるようになったのには、こんな理由がある」
そうした知識が、いつか新しいお菓子を考えるときのヒントになることもあります。
だから私は、パティシエになったからこそ、時々こうした基本的な本を読むことにも意味があると思っています。
難しい専門書を読むことだけが勉強ではありません。
むしろ、普段当たり前に扱っているお菓子を、少し離れたところから見直してみる。
そのきっかけとして、こうした本は面白い存在です。
『知ると楽しい! 洋菓子のひみつ』は、これから洋菓子を学ぶ人はもちろん、普段何気なくお菓子を食べている人にも、洋菓子の見方を少し変えてくれる一冊だと思います。
そして、23年お菓子を作ってきた私にとっても、「知っているつもりになっていた洋菓子を、もう一度知る」という面白さを感じさせてくれる本でした。
お菓子を作ることも楽しい。
でも、そのお菓子がどこから来たのか、なぜ今も食べられているのかを知ると、洋菓子はもっと面白くなります。




