お菓子は“食感”で組み立てられる。『食感で組み立てる 新しいフランス菓子』から考える菓子の設計

本から学ぶ

お菓子を食べたとき、「おいしい」と感じるのは、味だけでしょうか。

甘い、酸っぱい、苦い、香りがいい。

もちろん、それらはお菓子のおいしさを決める大切な要素です。

でも、私たちはお菓子を食べるとき、同時に「食感」も感じています。

サクッとする。

パリッとする。

ふわっとする。

なめらかに溶ける。

あるいは、ねっとりとしたコクを感じる。

こうした食感の違いが組み合わさることで、一つのお菓子の印象は大きく変わります。

私は23年ほど、パティシエとして洋菓子の仕事に携わってきました。

その中で感じるのは、お菓子を作るときに「味」だけを考えているわけではないということです。

例えば、ビスキュイはどんな食感にするのか。

クリームはどのくらいなめらかにするのか。

そこにサクッとしたパーツを加えるのか。

チョコレートやナッツなどで、カリッとしたアクセントをつくるのか。

一つひとつのパーツを作るだけではなく、それらを一緒に食べたときにどう感じるのかまで考えます。

つまり、食感もお菓子を組み立てるための大切な要素なのです。

そんな「食感を組み立てる」という考え方を、タイトルそのものにしているのが、オーレリアン・コーエン著、三本松里佳訳の『食感で組み立てる 新しいフランス菓子』です。

この本を見て、私が改めて考えさせられたのが、「食感は最後に付け加えるものではない」ということでした。

お菓子を作るとき、最初に味や見た目を考えて、最後に食感を調整する。

そう考えることもできます。

でも、最初から「どんな食感を感じてもらいたいのか」を考えておけば、使う材料や製法、組み合わせるパーツも変わってきます。

例えば、なめらかなムースだけで構成されたお菓子があったとします。

それはそれでおいしい。

でも、そこにサクッとしたビスキュイや、パリッとしたチョコレート、カリッとしたナッツなどが加わると、食べたときの印象は変わります。

やわらかい。

サクッ。

なめらか。

パリッ。

一口の中で食感が変化する。

この変化が、お菓子を食べる楽しさにつながります。

だからといって、いろいろな食感を入れればいいわけではありません。

大切なのは、それぞれの食感がどのような役割を持っているのかを考えることです。

なめらかなムースを引き立てるために、あえて歯切れのよいパーツを入れる。

甘さが強いクリームに、香ばしく焼いた生地を合わせる。

口溶けのよい素材の中に、少しだけ歯ごたえのあるものを加える。

そうすることで、それぞれのパーツが単独で存在するのではなく、一つのお菓子としてつながっていきます。

この考え方は、私自身が普段のお菓子作りで意識していることとも重なります。

23年も洋菓子を作っていると、レシピに書かれている材料や配合だけではなく、「この工程にはどんな意味があるのか」「このパーツは、完成したお菓子の中でどんな役割をするのか」と考えるようになります。

食感についても同じです。

ただ「サクサクしたものを入れる」のではありません。

なぜサクサクさせるのか。

何と組み合わせるのか。

一緒に食べたとき、どんな変化を感じてもらいたいのか。

そこまで考えると、食感は単なる仕上がりではなく、お菓子を設計するための材料の一つになります。

以前、『Pâtissier パティシエ vol.2』の記事でも、食感について考えました。

そこでは「食感を知り、食感を生かす」という視点から、お菓子の食感について考えています。

今回の『食感で組み立てる 新しいフランス菓子』では、そこからもう一歩進んで、「では、その食感をどう組み合わせて、一つのお菓子にするのか」という視点で考えることができます。

食感を知る。

食感を生かす。

そして、食感を組み立てる。

こうして考えていくと、お菓子作りは単にレシピどおりにパーツを作る作業ではなくなります。

生地、クリーム、ムース、チョコレート、ナッツなど、それぞれの素材やパーツが持っている特徴を理解し、それらを組み合わせて、食べた瞬間の体験まで設計していく。

それも、パティシエの仕事の一つなのだと思います。

『食感で組み立てる 新しいフランス菓子』は、レシピを知るためだけではなく、「なぜこの組み合わせなのか」と考えながらお菓子を見るきっかけを与えてくれる一冊です。

お菓子のレシピを見るとき、材料や配合だけではなく、「この食感をなぜここに入れているのだろう」と考えてみる。

そうすると、いつも見ているお菓子が、少し違って見えてくるかもしれません。

お菓子は、味や見た目だけで完成するものではない。

食感もまた、お菓子を組み立てる大切な要素なのです。

書籍情報

・作品名:食感で組み立てる 新しいフランス菓子
・著者/編集:オーレリアン・コーエン (著), 三本松 里佳 (翻訳)
・出版社:パイ インターナショナル
・発売日:2025/12/12
・ページ数:256ページ
・ISBN-10:4756260438
・ISBN-13:978-4756260437

パティシエは“食感”まで設計する。『Pâtissier パティシエ vol.2』から考えるお菓子の技術
お菓子のおいしさを決めるものは、何でしょうか。甘さ、酸味、香り、見た目。もちろん、これらは大切です。でも、パティシエとして仕事をしていると、もう一つ欠かせないものがあると感じます。それが「食感」です。サクッ、ふわっ、パリッ、とろっ、なめらか…
パティシエは、お菓子を“見た目”まで設計する。『Pâtissier パティシエ vol.3』から考える菓子のデザイン
お菓子を見た瞬間、「おいしそう」と感じたことはありませんか。まだ口に入れていないのに、甘そう、酸っぱそう、軽そう、濃厚そう……。私たちは、お菓子を食べる前から、見た目からいろいろな情報を受け取っています。パティシエとして長く仕事をしていると…
タイトルとURLをコピーしました