レシピを知るだけでは、お菓子はつくれない。『アテスウェイ 川村英樹の菓子』から見るパティシエの仕事

本から学ぶ

有名なパティシエのお菓子を見ると、「どうやってつくっているのだろう?」と気になることがあります。

レシピが公開されていれば、材料も工程も確認できます。

それなら、そのレシピ通りにつくれば、同じお菓子ができるのでしょうか。

もちろん、基本的な形はつくれるでしょう。

でも、パティシエとして長く仕事をしていると、それだけではないと思うことがあります。

お菓子には、レシピの数字だけでは見えない部分があるからです。

一つのお菓子は、いくつものパーツでできている

洋菓子をつくっていると、一つの商品にいくつものパーツを組み合わせることがあります。

ビスキュイ。

ムース。

クリーム。

ジュレ。

ソース。

クランブル。

そして仕上げのチョコレートやフルーツ。

それぞれを別々につくり、最後に一つのお菓子として組み立てていきます。

ここで難しいのは、パーツをたくさんつくればおいしくなるわけではないことです。

むしろ、パーツが増えるほど、それぞれの役割を考えなければなりません。

甘さが強すぎないか。

酸味はどこにあるのか。

食感に変化があるか。

香りはつながっているか。

そして、実際に一口食べたときに、全体が一つの味としてまとまっているか。

お菓子づくりには、こうした「組み立て」があります。

「おいしい」をつくるための計算

以前、プチガトーについて考えた記事でも、見た目の奥には味の設計があるという話をしました。

華やかなデコレーションを見ると、どうしても見た目に目が行きます。

しかし、パティシエが本当に考えているのは、見た目だけではありません。

一口目に何を感じるのか。

そのあとに何が現れるのか。

最後にどんな余韻を残すのか。

パーツの厚みや食感はどうするのか。

そう考えると、お菓子づくりは「センス」だけでできているものではないことが分かります。

もちろん感性は必要です。

でも、その感性を形にするためには、材料の性質や製菓技術、そして経験が必要になります。

だから、レシピだけでは分からない

レシピには、材料と分量、温度、時間、作業工程が書かれています。

これはお菓子をつくるために必要な情報です。

ただ、その数字の背景にある「なぜ」までは、必ずしも書かれていません。

なぜ、この厚みにするのか。

なぜ、この食感を組み合わせるのか。

なぜ、このパーツを重ねるのか。

なぜ、このデコレーションなのか。

そこまで考えてみると、レシピは単なる作り方ではなく、パティシエが考えた「設計図」のようにも見えてきます。

だからこそ、一流のパティシエのレシピを見ることには面白さがあります。

完成したお菓子だけでなく、その背景にある考え方まで想像できるからです。

川村英樹さんの菓子を見てみる

そんな視点で興味深い一冊が、『アテスウェイ 川村英樹の菓子』です。

東京・吉祥寺の人気パティスリー「アテスウェイ」のオーナーシェフ、川村英樹さんによるレシピ集です。

本書には、オリジナルのプティガトーやアントルメを中心に、ブルターニュで学んだ焼き菓子、グラスデザート、チョコレート菓子など、56品が収録されています。

構成も、

「クラシックを僕なりのスタイルで」

「ブルターニュの海と、菓子と」

「感受性豊かに、自由に」

「幸せなひとときに、驚きと感動を」

「アイスクリームに遊び心を加えて」

「ショコラの可能性を追い求めて」

という6章に分かれています。

この章立てを見るだけでも、単純にレシピを並べた本ではないことが伝わってきます。

フランス菓子のクラシックを土台にしながら、ブルターニュでの経験や創作、アイスクリーム、ショコラへと広がっていく。

そこには、川村さんがどのように菓子と向き合ってきたのかが表れているように感じます。

「パーツ」まで見ると、もっと面白い

本書について柴田書店が紹介している特徴の一つが、複数のパーツを組み合わせてつくる繊細な味わいです。

それぞれの素材の風味を生かしながら、一つの素材だけが突出しないように、各パーツの味、質感、気泡の入り具合、厚み、重ねる順番などを考えて組み立てています。

これは、パティシエの仕事を知るうえで、とても興味深いところです。

完成したケーキだけを見ると、「きれいなケーキだな」で終わってしまうかもしれません。

でも、その中に何種類ものパーツがあり、それぞれに役割があると知ると、見方が変わります。

ムース一つを見ても、その硬さや口溶けには理由がある。

ビスキュイの厚みにも意味がある。

クリームの量や重ねる順番にも意味がある。

そう考えていくと、一つのプチガトーが、かなり緻密に設計されていることが分かります。

パティシエの仕事は「つくる」だけではない

パティシエというと、技術を使ってお菓子をつくる仕事だと思われがちです。

もちろん、それは間違いではありません。

ただ、実際には「何をつくるのか」を考えることも重要な仕事です。

どんな素材を使うのか。

どんな味にするのか。

どんな食感にするのか。

どんな見た目にするのか。

そして、それらをどう一つのお菓子にまとめるのか。

技術は、その考えを形にするための手段でもあります。

だから、優れたレシピを見るときには、工程を覚えるだけではなく、「なぜ、この組み合わせなのだろう」と考えてみる。

それだけでも、製菓の勉強の仕方は少し変わるのではないでしょうか。

一流の菓子を「見る」という勉強

アテスウェイ 川村英樹の菓子』は、56品のレシピを学べるだけでなく、川村さんがどのように素材やパーツを組み合わせて菓子を構成しているのかを見ることができる一冊です。

すぐに同じお菓子をつくることを目的にするのではなく、

「このパーツには、どんな役割があるのだろう?」

「なぜ、この厚みなのだろう?」

「なぜ、この素材を合わせたのだろう?」

そんなことを考えながらページをめくってみる。

そうすると、一流パティシエのお菓子は、ただ「きれい」「おいしそう」というだけではなく、技術と経験、そして細かな設計によってつくられていることが見えてきます。

パティシエの仕事をもっと深く知りたい。

そんな人にとって、完成したお菓子だけではなく、その背景にある考え方まで想像させてくれる一冊だと思います。

書籍情報

・作品名:アテスウェイ 川村英樹の菓子
・著者/編集:川村 英樹 (著)
・出版社:柴田書店
・発売日:2019/7/1
・ページ数:276ページ
・ISBN-10:4388063118
・ISBN-13:978-4388063116

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