パティシエは、お菓子を作る仕事。
もちろん、それは間違いではありません。
材料を計量し、生地を仕込み、焼き、クリームを絞り、パーツを組み立て、最後に美しく仕上げる。
私自身もパティシエとして長く仕事をしてきましたが、経験を重ねるほど、「お菓子を作る」という言葉だけでは、この仕事を表現しきれないと感じるようになりました。
お菓子は、作る前から始まっている。
どんな味にするのか。
どんな食感を組み合わせるのか。
どの材料を使うのか。
どの工程を残し、どこを省くのか。
そして、現場で無理なく、安定して作るにはどうすればいいのか。
こうしたことを考えるのも、パティシエの仕事です。
そんなことを改めて考えさせてくれたのが、『アステリスク 和泉光一のガトー設計術』でした。
この本を見て最初に感じたのは、「これはレシピを覚えるためだけの本ではない」ということです。
もちろん、美しく完成されたガトーが数多く紹介されています。
しかし、そこから見えてくるのは、完成したお菓子そのものだけではありません。
「なぜ、この構造になっているのか」
そんな視点でレシピを眺めると、ガトーの一つひとつが、まるで設計図のように見えてきます。
例えば、一つのお菓子の中には、ビスキュイ、クリーム、ムース、ジュレ、ソースなど、さまざまなパーツがあります。
ただ、たくさんのパーツを組み合わせれば、おいしくなるわけではありません。
味の強さ、食感、厚み、口の中での変化。
それぞれがどんな役割を持ち、どう組み合わさるのか。
さらに、実際の製造現場では「おいしいけれど作るのが大変」というだけでは商品になりません。
品質を保ちながら、効率よく、安定して作る。
そのためには、製法そのものを考える必要があります。
『アステリスク』で紹介されている独自の製法や工程への考え方を見ていると、パティシエの技術とは、単に「手を動かす技術」ではないのだと感じます。
頭の中でお菓子を組み立て、それを実際の製造工程に落とし込む。
言い換えれば、パティシエには「設計する力」も必要なのです。
これは、これからパティシエを目指す人にとっても、大切な視点ではないでしょうか。
学校でレシピを学ぶと、どうしても「この材料を使う」「この順番で混ぜる」「この温度で焼く」という答えを覚えることに意識が向きます。
もちろん、基本を身につけるためには必要です。
でも、その先には「なぜ、この方法なのか?」があります。
そして、さらにその先には、
「もっと良くするにはどうすればいいのか?」
という問いがあります。
私は、そこからがパティシエとしての面白さなのだと思います。
『アステリスク 和泉光一のガトー設計術』は、完成されたお菓子を見るだけではなく、その裏側にある「考える仕事」に目を向けさせてくれる一冊です。
レシピをそのまま再現するためだけではなく、「自分なら、どう設計するだろう」と考えながら読む。
そうすると、この本は一冊の製菓技術書から、パティシエとしての考え方を学ぶ本へと変わってくるように感じます。
お菓子を作れること。
そして、お菓子を考え、設計できること。
この二つは、似ているようで少し違います。
パティシエという仕事を、もう一段深く考えてみたい。
そんな人にとって、『アステリスク 和泉光一のガトー設計術』は、新しい視点を与えてくれる一冊だと思います。
書籍情報
・作品名:アステリスク: 和泉光一のガトー設計術
・著者/編集:和泉 光一 (著)
・出版社:柴田書店
・発売日:2026/4/2
・ページ数:280ページ
・ISBN-10:4388064033
・ISBN-13:978-4388064038

