お菓子をつくっていると、「なぜ?」と思う瞬間があります。
なぜ、小麦粉に水を加えると生地になるのか。
なぜ、卵を泡立てると生地が膨らむのか。
なぜ、生クリームは泡立つのに、泡立てすぎるとバターのようになってしまうのか。
なぜ、同じチョコレートでも、温度や混ぜ方によって仕上がりが変わるのか。
パティシエとして仕事をしていると、こうした疑問を経験から理解していくことがあります。
でも、経験だけではなく「なぜそうなるのか」を科学的に知ると、いつもの製菓作業が少し違って見えてきます。
そんな「お菓子のなぜ?」を考えるときに、興味深い一冊があります。
河田昌子さんの『新版 お菓子「こつ」の科学 お菓子作りの「なぜ?」に答える』です。
パティシエの仕事には「なぜ?」がたくさんある
製菓の仕事では、レシピに書かれていることを正確に行うことが基本です。
材料を計量する。
決められた順番で混ぜる。
指定された温度まで加熱する。
生地の状態を見極める。
そして、焼き上げる。
一見すると、決められた手順を繰り返しているようにも見えます。
しかし、実際には「なぜ、この工程が必要なのか」を理解しているかどうかで、製菓に対する見方が変わります。
例えば、小麦粉。
小麦粉には、強力粉や薄力粉などの違いがあります。
その違いを単に「お菓子には薄力粉を使う」と覚えることもできます。
でも、なぜ違うのか。
水と結びつくことで何が起こるのか。
こねたり混ぜたりすることで、生地にどんな変化が起こるのか。
そこまで考えていくと、材料が単なる「レシピの一部」ではなくなります。
お菓子をつくるための材料には、それぞれ役割がある。
その役割を理解することが、製菓を深く学ぶことにつながっていきます。
お菓子づくりを「科学」で見る
『新版 お菓子「こつ」の科学』の大きな特徴は、お菓子づくりの疑問を科学的な視点から解説していることです。
本書は1987年に刊行された『お菓子「こつ」の科学』を全面改訂した新版で、著者の河田昌子さんが長年にわたって調査・分析・実験した成果をもとに内容を大きく改めています。320ページの中で、お菓子づくりに関するさまざまな「なぜ?」を扱っています。
例えば、本書では「強力粉と薄力粉の違いは?」といった小麦粉に関する疑問だけでなく、生クリームの泡立ちやチョコレート、乳製品などについても詳しく取り上げています。
ここが、パティシエにとって面白いところです。
「こうすると、こうなる」という経験則だけではなく、
「なぜ、そうなるのか」
というところまで掘り下げられるからです。
材料を知ると、お菓子の見え方が変わる
Lumiaでも、これまで栄養や食品についての記事を作ってきました。
三大栄養素について考えたときも、糖質・脂質・たんぱく質という栄養素の名前を覚えるだけではなく、それぞれが私たちの体の中でどんな役割を持っているのかを知ることが大切でした。
製菓でも、考え方は少し似ています。
砂糖は甘さを加えるためだけのものではありません。
卵も、単に材料をまとめるためだけに使われているわけではありません。
バターも、油脂として使うだけではありません。
小麦粉にも、チョコレートにも、それぞれ製菓の中で果たしている役割があります。
だからこそ、材料について知れば知るほど、お菓子そのものへの理解も深くなります。
例えばナッツについて考えてみても、製菓材料としての香ばしさや食感だけではなく、脂質やたんぱく質、ミネラルなどの栄養面にも目を向けることができます。
「お菓子に何が入っているのか」を知る。
そして、「その材料にはどんな特徴があるのか」を知る。
そこから、栄養や食生活について考えることもできます。
これは、Lumiaが大切にしている「お菓子を入口にして、食や健康を考える」という視点にもつながっています。
「こつ」は経験だけではない
製菓の世界では、「こつ」という言葉をよく使います。
「混ぜすぎない」
「温度を上げすぎない」
「泡をつぶさない」
「乳化させる」
こうした言葉は、パティシエにとっては日常的なものです。
でも、その「こつ」がなぜ必要なのかを考えてみると、そこには科学的な理由があります。
例えば、グルテン。
小麦粉に含まれるたんぱく質と水が関係することで、生地の性質に変化が起こります。
泡立てた生クリームも、単純に「空気を入れれば完成」というものではありません。
泡立てることでクリームの状態が変化し、さらに進めれば別の状態へと変わっていきます。
こうした変化を知ると、普段何気なく行っている作業にも意味が見えてきます。
「この作業は、こういう状態をつくるために行っている」
そう理解できれば、レシピを丸暗記するだけではなく、自分で判断するための材料になります。
パティシエにとって「科学」は難しいものではない
「科学」と聞くと、難しい数式や専門用語を思い浮かべるかもしれません。
でも、製菓の現場で考えてみると、科学は意外と身近なものです。
生地の温度。
材料の水分。
泡の状態。
油脂の性質。
加熱による変化。
これらはすべて、お菓子づくりの中で日常的に起こっています。
だからこそ、製菓を科学的に見ることは、特別な勉強というよりも、普段の仕事をもう一段深く理解することなのだと思います。
『新版 お菓子「こつ」の科学』は、まさにそのための一冊です。
専門的な内容を扱いながらも、「お菓子づくりのなぜ?」という身近な疑問から読み進められるところに魅力があります。
パティシエだからこそ、もう一度読みたい
製菓を学び始めたばかりの頃は、技術を身につけることに一生懸命です。
そして経験を積むと、今度は感覚で判断できることが増えてきます。
これは職人として大きな強みです。
一方で、感覚でできるようになったことほど、「なぜそうなるのか」を説明するのが難しくなることもあります。
だからこそ、経験を積んだあとに科学の視点から製菓を見直してみるのは面白いと思います。
「あの作業には、こんな理由があったのか」
「だから、この状態を見極める必要があったのか」
そんな発見があるかもしれません。
私自身、製菓の仕事を続けてきたからこそ、こうした本を読むと、昔学んだことをもう一度違う角度から見直す面白さを感じます。
お菓子の「なぜ?」から、食の「なぜ?」へ
Lumiaでは、これからもお菓子や製菓材料について考えていきます。
小麦粉。
砂糖。
バター。
チョコレート。
ナッツ。
こうした材料を一つずつ見ていくと、製菓だけではなく、食品や栄養についても興味が広がっていきます。
「なぜ、この材料を使うのか?」
「なぜ、この作り方をするのか?」
「なぜ、この食感になるのか?」
そんな疑問を一つずつ掘り下げていく。
その先には、単なるレシピではない「お菓子を知る楽しさ」があります。
そして、お菓子を知ることから、食べることや栄養について考えるきっかけも生まれます。
『新版 お菓子「こつ」の科学』は、そんな「なぜ?」を深く掘り下げたい人にとって、興味深い一冊です。
『新版 お菓子「こつ」の科学』
『新版 お菓子「こつ」の科学 お菓子作りの「なぜ?」に答える』は、河田昌子さんが著した製菓の科学を扱う専門書です。
2012年12月28日に柴田書店から刊行され、320ページにわたって、お菓子づくりに関するさまざまな疑問を科学的な視点から解説しています。
1987年刊行の旧版を全面改訂し、チョコレートや乳製品などの内容も大幅に充実。小麦粉やグルテン、生クリーム、チョコレートなど、普段の製菓で触れる材料や現象を、より深く理解するための一冊になっています。
レシピを増やすためだけではなく、
「なぜ、この作業をするのか?」
「なぜ、この材料を使うのか?」
といった疑問を持ちながら製菓を学びたい方に、ぜひ知ってほしい本です。
お菓子の「こつ」を、経験だけではなく科学から考えてみる。
そうすると、いつもの製菓作業が、少し違って見えてくるかもしれません。


