なぜお菓子には薄力粉?薄力粉と強力粉の違いをパティシエが解説

洋菓子・製菓

お菓子作りのレシピを見ると、「薄力粉」と書かれていることがよくあります。

一方、パン作りでは「強力粉」が使われることが多いですよね。

では、薄力粉と強力粉は何が違うのでしょうか。

「強力粉のほうが強い小麦粉」という名前の違いだけではありません。

小麦粉に含まれるたんぱく質の量や性質が違い、それによって水を加えたときにできるグルテンの性質も変わります。

さらに、小麦粉にはグルテンだけでなく、でん粉も多く含まれています。

お菓子を焼くときには、このでん粉が加熱によって変化する「糊化」も、焼き上がりの生地を支える重要な現象です。

今回はパティシエの視点から、薄力粉と強力粉の違いを、栄養成分と製菓の両面から見てみましょう。

薄力粉と強力粉は、何が違う?

まず大きな違いは、たんぱく質の量です。

文部科学省の「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」で見ると、薄力粉1等は100g当たりたんぱく質8.3g、強力粉1等は11.8gです。

同じ小麦粉でも、強力粉のほうがたんぱく質を多く含んでいます。

この違いが、お菓子やパンを作るときの生地の性質に関係してきます。

一般的には、

薄力粉 → たんぱく質が少ない → グルテンの形成が比較的弱い

強力粉 → たんぱく質が多い → グルテンを形成しやすく、弾力のある生地になりやすい

と考えると分かりやすいでしょう。

そのため、薄力粉はケーキやクッキーなど、やわらかさやほろっとした食感を求めるお菓子に、強力粉はパンなど、弾力や伸びのある生地を求める食品に使われることが多くなります。

ただし、ここで一つ注意があります。

「薄力粉にはグルテンがない」という意味ではありません。

ここは、お菓子作りを理解するうえで大切なポイントです。

小麦粉に水を加えると「グルテン」ができる

小麦粉には、さまざまな成分が含まれています。

その中でも製菓で特に重要なのが、たんぱく質とでん粉です。

小麦粉に水を加えて混ぜると、小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンというたんぱく質が水を取り込み、相互作用しながらグルテンのネットワークを形成します。

このグルテンが、生地に弾力や伸びなどの性質を与えます。

以前の記事「小麦粉」でも紹介したように、小麦粉は単なる「白い粉」ではありません。

水を加えて混ぜることで、成分同士の関係が変化し、生地としての性質が生まれていきます。

そして、強力粉は薄力粉よりたんぱく質量が多いため、一般的にグルテンのネットワークを形成しやすく、より弾力のある生地につながります。

お菓子では「グルテンを強くすればいい」わけではない

パンでは、グルテンによる生地の伸びや弾力が重要になります。

では、お菓子でもグルテンをたくさん作ればよいのでしょうか。

答えは、そう単純ではありません。

例えばスポンジ系のお菓子では、きめ細かく、やわらかな食感が求められます。

ここでグルテンの形成が強くなりすぎると、生地の食感に影響する可能性があります。

小麦粉と焼き菓子の物性を扱った研究でも、薄力系の小麦粉は、やわらかな口当たりを重視する菓子材料に多く使われていることが紹介されています。

だからパティシエは、単純に「たんぱく質が多い粉=良い粉」と考えるわけではありません。

どんな食感にしたいのか。

その目的に合わせて小麦粉を選びます。

ふんわりさせたいのか。

サクッとさせたいのか。

ほろっと崩れるようにしたいのか。

それとも、ある程度の弾力や形の保持力が必要なのか。

小麦粉選びは、食感を設計する作業でもあります。

もう一つ重要なのが「でん粉」

小麦粉について考えるとき、グルテンばかりに注目してしまいがちです。

しかし、小麦粉の中ではでん粉も大きな役割を持っています。

小麦粉を水に分散させた研究では、グルテンを主とするたんぱく質のネットワークだけでなく、でん粉粒子も生地中の水との関係に大きく関わることが示されています。

そして、お菓子を焼くときに重要になるのが、でん粉の糊化です。

「でん粉の糊化」って何?

生のでん粉は、水と一緒に加熱されることで状態が変化します。

これが「糊化」です。

簡単にいうと、でん粉が水分を取り込みながら加熱され、膨潤していく現象です。

お菓子の生地では、加熱によってでん粉が糊化することで、生地の構造や食感にも影響します。

実際に小麦粉を使った焼き菓子について調べた研究では、クッキー、パウンドケーキ、スポンジケーキなどで、でん粉の糊化度に違いが見られています。また、焼き上がった製品の水分量と糊化度との間には高い相関が報告されています。

つまり、焼き菓子を作るときには、

グルテンが生地の構造をつくる

だけではありません。

でん粉も加熱によって変化し、生地の状態や食感に関係する

のです。

小麦粉を「グルテンを作る材料」とだけ考えると、半分しか見えていないことになります。

薄力粉と強力粉、栄養面ではどう違う?

では、栄養面ではどうでしょうか。

文部科学省の成分表で100g当たりを比較すると、薄力粉1等はエネルギー349kcal、たんぱく質8.3g、脂質1.5g、炭水化物75.8g。

強力粉1等はエネルギー337kcal、たんぱく質11.8g、脂質1.5g、炭水化物71.7gです。

この数字を見ると、強力粉のほうがたんぱく質が多く、薄力粉のほうが炭水化物がやや多いことが分かります。

ただし、ここから「強力粉のほうが健康に良い」と考えるのは適切ではありません。

どちらも主成分は炭水化物であり、違いは小麦粉の種類や等級などによって生じます。

また、実際にお菓子として食べる場合は、小麦粉だけで食べるわけではありません。

砂糖、バター、卵、生クリームなど、ほかの材料も加わります。

だから栄養を考えるときも、小麦粉だけを見て食品全体を判断しないことが大切です。

パティシエは「強い粉・弱い粉」だけで選んでいない

薄力粉と強力粉の違いを知ると、「なぜこのお菓子には薄力粉を使うのか?」という疑問も少し見えてきます。

パティシエが小麦粉を選ぶときに考えているのは、単純な「強い・弱い」だけではありません。

グルテンをどの程度形成させたいのか。

どんな生地の状態にしたいのか。

焼成後にどんな食感にしたいのか。

でん粉の糊化を含めて、加熱によってどのような構造をつくりたいのか。

そうしたことを考えながら、小麦粉を選んでいます。

例えば、ふんわりしたスポンジを作るのと、しっかりしたパン生地を作るのでは、求められる小麦粉の性質が違います。

同じ「小麦粉」でも、目的によって使い分ける。

そこに製菓の面白さがあります。

小麦粉は「白い粉」ではなく、働く材料

小麦粉を見るとき、つい「粉だから生地を固める材料」と考えてしまいます。

でも実際には、たんぱく質からできるグルテンと、でん粉という大きな二つの要素があり、それぞれが水や熱と関係しながら生地を変化させています。

薄力粉と強力粉の違いも、単純に名前を覚えるだけではありません。

たんぱく質量の違い
→ グルテン形成の違い
→ 生地の性質の違い
→ お菓子の食感の違い

そして、

でん粉+水+加熱
→ 糊化
→ 焼き上がった生地の構造や食感に影響

という流れまで知ると、小麦粉が少し違って見えてきます。

パティシエにとって小麦粉は、レシピに書かれた「材料の一つ」ではありません。

お菓子の食感や構造をつくる、重要な設計材料です。

薄力粉と強力粉。

たった一文字違うように見える二つの小麦粉にも、製菓につながる科学が詰まっています。

参考文献・参考資料

【食品成分・公的資料】

文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html

文部科学省「食品成分データベース」
https://fooddb.mext.go.jp/

文部科学省「穀類/こむぎ/[小麦粉]/薄力粉/1等」
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=1_01015_7

文部科学省「穀類/こむぎ/[小麦粉]/強力粉/1等」
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=1_01020_7

【小麦粉・グルテン・製菓科学】

瓦家千代子「調理と科学(8)小麦粉の調理」
『生活衛生』29(2), 1983, 111-116.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/29/2/29_2_111/_pdf

國府田佳弘「グルテンを添加した小麦粉ドウの粘弾性的挙動」
『日本食品工業学会誌』26(3), 1979, 127-132.
https://www.jstage.go.jp/article/nskkk1962/26/3/26_3_127/_article

和田淑子「小麦粉と焼菓子の物性」
『調理科学』27(3), 1994, 204-210.
https://www.jstage.go.jp/article/cookeryscience1968/27/3/27_204/_pdf

「時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)を用いた小麦粉生地の評価―デンプンとグルテンの分離分析―」
『日本調理科学会大会研究発表要旨集』36, 2024.
https://www.jstage.go.jp/article/ajscs/36/0/36_54/_article

【でん粉の糊化・焼き菓子】

市川朝子・佐々木市枝「焼き菓子製品中のデンプンの糊化度―小麦粉の加熱調理に関する研究(第2報)」
『日本家政学会誌』37(10), 1986, 865-870.
https://www.jstage.go.jp/article/jhej1951/37/10/37_10_865/_article

倉賀野妙子・和田淑子「機能性糖質甘味料の低水分系焼き菓子における膨化と食感発現への関与」
『調理科学』35(3), 2002, 258-265.
https://www.jstage.go.jp/article/cookeryscience1995/35/3/35_258/_article

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