スチコンは「焼く機械」ではない。『洋菓子の新焼成法』から考えるパティシエの感性

本から学ぶ

お菓子を焼く。

パティシエにとっては、毎日の仕事の一つです。

オーブンに生地を入れて、温度と時間を設定する。

一見すると単純な作業に見えますが、実際にはそう簡単ではありません。

同じレシピでも、オーブンの状態や風の当たり方、焼成温度によって、焼き上がりは変わります。

焼き色はどうか。
水分はどれくらい残っているか。
食感は狙った状態になっているか。

焼成には、パティシエの判断が詰まっています。

そんな「焼く」という仕事について、改めて考えさせてくれたのが、『洋菓子の新焼成法~スチコンが引き立てる、パティシエの感性~』です。

この本の特徴は、スチームコンベクションオーブン、いわゆる「スチコン」を洋菓子の焼成に積極的に活用していることです。

スチコンというと、料理や給食などで使われる大型の調理機器というイメージを持っている人もいるかもしれません。

しかし、本書ではスチコンの温度や湿度、風量などを利用して、生地の焼き分けを検証しています。

ここで私が面白いと感じたのは、「スチコンなら簡単においしく焼ける」という話ではないことです。

むしろ逆です。

道具の特性を知ったうえで、「どう使えば、自分が目指すお菓子に近づけられるのか」を考えている。

つまり、機械がパティシエの代わりに判断するのではなく、パティシエの判断を広げるために機械を使っているのです。

これは、パティシエの仕事を考えるうえで、とても大切なことだと思います。

新しい機械が登場すると、「昔のやり方が必要なくなるのでは?」と考えてしまうことがあります。

でも、私はそうは思いません。

道具が進化しても、「どんなお菓子にしたいのか」を決めるのは人です。

ふんわり焼き上げたいのか。
表面をしっかり焼きたいのか。
水分を残したいのか。
香ばしさを強くしたいのか。

その目的によって、焼成の考え方は変わります。

だからこそ、パティシエには道具を操作する技術だけでなく、焼き上がったお菓子を見て、触れて、食べて、「なぜこうなったのか」を考える力が必要なのだと思います。

『洋菓子の新焼成法』を読んでいると、スチコンという新しい道具そのものよりも、「焼成をもっと自由に考えてみよう」という姿勢に興味を持ちます。

これまで当たり前だと思っていた焼き方も、本当にそれが最適なのか。

別の温度ならどうなるのか。
湿度を変えたらどうなるのか。
風量を変えたら食感はどう変わるのか。

こうした小さな疑問を実験し、自分のお菓子に落とし込んでいく。

そこに、パティシエの感性があるのではないでしょうか。

道具が変われば、お菓子が勝手に進化するわけではありません。

道具を知り、試し、失敗し、結果を見て、また考える。

その繰り返しによって、パティシエ自身の引き出しが増えていく。

この本は、スチコンの技術書であると同時に、「パティシエは道具とどう向き合うのか」を考えさせてくれる一冊だと感じました。

新しい道具を使うことは、伝統を捨てることではない。

これまで培ってきた技術に、新しい選択肢を加えること。

そう考えると、焼成という昔から続く仕事にも、まだまだ新しい可能性があるのだと思います。

書籍情報

・作品名:洋菓子の新焼成法~スチコンが引き立てる、パティシエの感性~
・著者/編集:髙木康裕 (著)
・出版社:旭屋出版
・発売日:2025/2/7
・ページ数:200ページ
・ISBN-10:4751115359
・ISBN-13:978-4751115350

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