チョコレートは、多くの人にとって身近なお菓子です。
板チョコレートを食べたり、ケーキや焼き菓子の中に使われているチョコレートを楽しんだり、私たちは日常のさまざまな場面でチョコレートに触れています。
では、そのチョコレートの原料である「カカオ」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
「カカオとチョコレートは何が違うの?」
「カカオにはどんな栄養があるの?」
「パティシエはカカオをどのように使っているの?」
こうした疑問を持ったことがある方もいるかもしれません。
私自身、パティシエとして23年間、チョコレートやカカオを使った洋菓子に携わってきました。
その経験から見ると、カカオは単に「チョコレートの原料」というだけではありません。
栄養という視点から見ると、一つの食品素材として見ることができます。
一方、製菓という視点から見ると、風味や色、食感など、洋菓子を構成する重要な材料です。
今回は、そんなカカオを、「栄養のレンズ」「パティシエのレンズ」という二つの視点から見ていきます。
そして最後には、カカオと組み合わせることの多い「ナッツ」へと話をつなげていきます。
そもそも「カカオ」とは何でしょうか?
まずは、カカオそのものについて知っておきましょう。
カカオは、アオイ科のカカオ属に分類される植物です。
私たちが「カカオ」と聞いて思い浮かべるチョコレートは、カカオの果実の中にある種子を原料として作られています。
この種子が、一般に「カカオ豆」と呼ばれているものです。
カカオの果実は「カカオポッド」と呼ばれ、その中にはカカオ豆と、それを包む果肉があります。
つまり、
カカオという植物がある
↓
その果実の中にカカオ豆がある
↓
そのカカオ豆がチョコレートの原料になる
という関係です。
普段私たちが食べているチョコレートは、最初から「チョコレート」という形で存在しているわけではありません。
植物としてのカカオから始まり、さまざまな工程を経て、私たちが知っているチョコレートへと姿を変えていきます。
この「姿が変わっていく過程」を知ると、チョコレートの見方も少し変わってきます。
カカオ豆からチョコレートになるまで
では、カカオ豆はどのようにしてチョコレートになるのでしょうか。
一般的には、カカオの収穫後、発酵、乾燥などの工程を経たカカオ豆が加工されます。
その後、焙煎や粉砕などの工程を経ることで、チョコレートの原料として利用されるようになります。
ここで登場するのが、
カカオニブ
です。
カカオ豆を加工して外皮などを取り除き、内部を砕いたものがカカオニブです。
さらにカカオニブをすりつぶすと、カカオ豆に含まれる脂肪分であるカカオバターなどによって、ペースト状になります。
これが、
カカオマス
です。
そして、カカオマスやカカオバター、砂糖、必要に応じて乳成分などを組み合わせることで、さまざまなチョコレート製品が作られます。
一方、カカオ豆の加工によって得られるカカオマスから脂肪分の一部を取り除き、残った固形分を粉末にしたものがココアパウダーです。
つまり、カカオという一つの素材から、
カカオニブ
カカオマス
カカオバター
ココアパウダー
チョコレート
など、さまざまな形の材料が生まれます。
ここは、パティシエにとって非常に興味深いところです。
同じカカオをもとにしていても、加工によって性質の異なる材料になり、それぞれに違った使い道が生まれるからです。
「カカオ」と「チョコレート」は同じではない
ここで一つ、覚えておきたいことがあります。
それは、
「カカオ」と「チョコレート」を同じものとして考えないこと
です。
カカオはチョコレートの原料となる植物・種子や、それを加工した素材を指す言葉です。
一方、チョコレートは、カカオ由来の原料に砂糖や乳成分などを組み合わせて作られた食品です。
そのため、チョコレートを見るときには、「カカオがどのくらい使われているのか」だけでなく、「ほかにどのような原材料が使われているのか」という視点も大切になります。
「カカオが入っているから同じ」というわけではありません。
製品によって原材料や栄養成分は異なるため、実際の商品について知りたい場合は、食品表示や栄養成分表示を確認することが大切です。
【栄養のレンズ】カカオを食品素材として見る
ここからは、一つ目のレンズです。
まずはパティシエという立場をいったん横に置き、カカオを「食品素材」として見てみましょう。
カカオ豆には、脂質、たんぱく質、炭水化物などの成分が含まれています。
また、カカオ由来の食品には、ポリフェノール類などの成分も含まれています。
ただし、ここで注意したいのは、「カカオを含む食品なら、すべて同じ栄養成分を持っているわけではない」ということです。
例えば、カカオ豆そのものとココアパウダー、チョコレートでは、製造工程や原材料が違います。
チョコレートの場合には、カカオ由来の成分だけでなく、砂糖や乳成分などが加えられることもあります。
そのため、「カカオには何が含まれているか」という話と、「チョコレートを食べると何を摂取することになるのか」という話は、分けて考える必要があります。
これは、食品の栄養を考えるときにとても大切な考え方です。
カカオを「成分」だけで判断しない
健康や栄養について調べていると、
「○○が含まれている食品」
という情報に目が向きがちです。
しかし、一つの食品を一つの成分だけで評価するのは簡単ではありません。
例えばチョコレートなら、カカオ由来の成分だけでなく、砂糖や脂質なども関係します。
さらに、同じ「チョコレート」という名前の商品でも、原材料の構成はさまざまです。
だからこそLumiaでは、「この食品には何が含まれているのか」だけではなく、「どんな食品として食べているのか」まで考えることを大切にします。
食品は、一つの栄養素だけでできているわけではないからです。
【パティシエのレンズ】カカオは「材料」に変わる
ここから二つ目のレンズに切り替えます。
パティシエから見ると、カカオは非常に面白い素材です。
なぜなら、カカオ豆そのものを食べるというより、加工されたカカオ素材を、目的に応じて使い分けるからです。
カカオマス。
カカオバター。
ココアパウダー。
チョコレート。
これらは、それぞれ異なる性質を持っています。
例えばココアパウダーは、チョコレートの風味や色を加えたいときだけでなく、焼き菓子や生地などにも使われます。
チョコレートは、ガナッシュ、ムース、クリーム、コーティングなど、さまざまな洋菓子に利用できます。
カカオバターも、チョコレート菓子の製造などに関わる重要な素材です。
つまり、パティシエにとってカカオは、「チョコレートを作るためだけの材料」ではありません。
さまざまな形に加工されたカカオ素材を、それぞれの性質に合わせて使い分ける。
それが製菓におけるカカオの面白さです。
チョコレートは「甘い材料」だけではない
チョコレートというと、「甘いお菓子」というイメージが強いかもしれません。
しかし、パティシエの立場から見ると、チョコレートは単なる甘味料ではありません。
風味。
香り。
色。
油脂。
口どけ。
固まり方。
さまざまな要素に関係する製菓材料です。
だからこそ、同じチョコレートでも、どのようなお菓子に使うのかによって選び方が変わります。
ガナッシュに使うのか。
ムースに使うのか。
焼き菓子に使うのか。
コーティングに使うのか。
目的によって、求める性質も変わります。
この「材料としての性質を見る」というのが、パティシエの視点です。
23年間パティシエとしてカカオを見てきて感じること
ここで、23年間パティシエとして洋菓子に携わってきた私自身の視点を少し入れたいと思います。
製菓の現場でチョコレートを扱っていると、チョコレートは「味が違う材料」というだけではなく、扱い方によって仕上がりが大きく変わる材料だと感じます。
同じチョコレートでも、何に使うのかによって求められる状態が違います。
溶かしてほかの材料と合わせる場合。
クリームと合わせる場合。
コーティングに使う場合。
型に流して固める場合。
それぞれで、温度や状態を意識する必要があります。
特にチョコレートは、温度管理が仕上がりに関わる代表的な材料です。
チョコレートをきれいに扱うためには、単に「溶かせばいい」というものではありません。
チョコレートの性質を理解し、目的に合わせて扱う。
23年間、製菓の仕事をしてきた中で、私がカカオやチョコレートに対して感じているのは、そうした「材料としての奥深さ」です。
これは、栄養成分表だけを見ていても分からない、カカオのもう一つの顔だと思います。
カカオを知ると、チョコレートの見方が変わる
ここまで、カカオを二つのレンズから見てきました。
栄養のレンズから見ると、「カカオはさまざまな成分を含む食品素材」として見ることができます。
パティシエのレンズから見ると、「カカオは加工によってさまざまな製菓材料へ姿を変える素材」として見ることができます。
同じカカオでも、見る方向によって見えてくるものが違います。
例えば、普段チョコレートを食べるときにも、
「これはどんなカカオを使っているのだろう?」
「カカオマスやカカオバターはどのように使われているのだろう?」
「このチョコレートは、どんなお菓子に向いているのだろう?」
と考えてみると、いつものチョコレートが少し違って見えてきます。
食品を知るということは、単に栄養成分を暗記することではありません。
その食品がどこから来て、どのように加工され、どのように私たちの食卓に届いているのかを知ること。
そしてパティシエの立場から見るなら、その材料が、どのようにお菓子へ姿を変えるのかを知ること。
そこまで知ると、食品に対する興味はもっと広がっていきます。
栄養のレンズとパティシエのレンズを合わせてみる
ここで、今回の二つのレンズを一つにしてみましょう。
栄養のレンズでは、「カカオにはどんな成分が含まれているのか」を見る。
パティシエのレンズでは、「カカオはどんな製菓材料になるのか」を見る。
この二つを合わせると、「カカオという素材が、食品として、そしてお菓子の材料として、どのような存在なのか」が見えてきます。
私は、ここに食品を学ぶ面白さがあると思っています。
栄養だけを学ぶのでもありません。
製菓だけを学ぶのでもありません。
一つの食品を両方の方向から見てみる。
すると、これまで何気なく食べていたものに、新しい意味が見えてきます。
これが、Lumiaで大切にしたい「二つのレンズ」です。
カカオの次は「ナッツ」を見てみる
カカオを使った洋菓子には、ナッツが組み合わされることも少なくありません。
アーモンド。
ヘーゼルナッツ。
ピスタチオ。
くるみ。
これらは、洋菓子の風味や食感を豊かにするだけでなく、栄養という視点から見ても興味深い食品です。
例えば、アーモンドはアーモンドパウダーとして焼き菓子に使われたり、ペーストやプラリネの材料になったりします。
ヘーゼルナッツも、チョコレートとの組み合わせでおなじみです。
ピスタチオは、クリームや焼き菓子、アイスクリームなど、さまざまな洋菓子に使われています。
では、ナッツは栄養のレンズから見ると、どのような食品なのでしょうか。
そして、パティシエから見ると、ナッツにはどのような魅力があるのでしょうか。
次回は、カカオと同じように洋菓子で活躍する、
「ナッツ」
を二つのレンズから見ていきます。
まとめ
今回は、カカオを「栄養のレンズ」と「パティシエのレンズ」という二つの視点から見てきました。
カカオは、カカオという植物の果実に含まれる種子をもとに、さまざまな加工を経て、カカオニブ、カカオマス、カカオバター、ココアパウダー、チョコレートなどの形で利用されています。
栄養の視点では、カカオを含む食品にどのような成分が含まれているのかを見ることができます。
ただし、カカオ豆とチョコレートでは原材料や加工方法が異なるため、「カカオ」と「チョコレート」を同じものとして考えないことが大切です。
一方、パティシエの視点から見ると、カカオはさまざまな製菓材料へ姿を変え、それぞれの性質を活かして洋菓子に使われています。
23年間パティシエとして仕事をしてきた私にとって、カカオやチョコレートは、単なる「甘いお菓子の材料」ではありません。
風味、香り、色、口どけなど、洋菓子を構成するさまざまな要素に関わる、奥深い製菓材料です。
そして、
栄養のレンズで食品を見る。
パティシエのレンズで材料を見る。
この二つを組み合わせることで、普段何気なく食べているチョコレートも、少し違った角度から楽しめるようになります。
Lumiaではこれからも、パティシエにとって身近な食品を取り上げながら、栄養と製菓の二つの視点から、その食品の魅力を探っていきます。
次回は、カカオと相性の良い「ナッツ」。
栄養から見るナッツと、パティシエから見るナッツ。
二つのレンズを通して、身近な食品をもう一度見てみましょう。
【本記事の参考資料】
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
日本チョコレート工業協同組合「チョコレート製造工程」
全国チョコレート業公正取引協議会「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」
消費者庁「栄養成分表示について」
食品科学レビュー「The Chemistry behind Chocolate Production」

