パンも、実は科学。パティシエだからこそ知っておきたい『パン「こつ」の科学』

本から学ぶ

パティシエとして仕事をしていると、「なぜ、こうなるのだろう?」と考える場面がたくさんあります。

小麦粉に水を加えると生地になるのはなぜなのか。

卵を泡立てると、なぜ生地をふくらませることができるのか。

同じ材料を使っていても、温度や混ぜ方を少し変えるだけで、仕上がりが変わるのはなぜなのか。

お菓子づくりには、経験や技術だけではなく、その背景にある「科学」があります。

そして、これはパンづくりにも共通しています。

「パンはなぜ膨らむのか?」

「焼いたパンから、なぜ香ばしい香りが生まれるのか?」

そんな素朴な疑問を、科学の視点から考えていくと、普段何気なく行っている作業も少し違って見えてきます。

そこで興味深い一冊があります。

『パン「こつ」の科学 パン作りの疑問に答える』です。

パンづくりの「なぜ?」を考えてみる

パンづくりと聞くと、小麦粉をこね、発酵させ、成形して焼くという一連の作業を思い浮かべるかもしれません。

しかし、それぞれの工程には理由があります。

なぜ小麦粉に水を加えるのか。

なぜ生地をこねる必要があるのか。

なぜ発酵させるのか。

なぜ焼くと大きく膨らみ、表面に焼き色がつくのか。

こうした疑問を一つずつ掘り下げていくと、パンづくりは単なる「レシピ」ではなく、材料と現象の変化を利用した技術だということが見えてきます。

柴田書店によると、本書ではパンに関する疑問を、生物化学、微生物学、有機化学、物理学などの知識をもとに解説しています。

しかも、専門的な理論を並べるのではなく、材料、製法、工程、パンに関する知識、トラブルなどを一問一答形式でまとめています。

この「一つの疑問から考える」という構成が、この本のおもしろいところです。

「なぜ?」が分かると、作業の見え方が変わる

製菓の仕事でも、先輩から教えてもらった方法をそのまま覚えることはあります。

「この温度で焼く」

「この状態まで混ぜる」

「ここでは混ぜすぎない」

もちろん、こうした経験則は非常に大切です。

ただ、その理由まで理解できると、状況が変わったときにも対応しやすくなります。

材料が変わった。

気温が違う。

湿度が高い。

仕込み量が違う。

機械が違う。

そんなときに、「いつもこうする」と覚えているだけではなく、「なぜこうするのか」を理解していれば、原因を考えながら調整できます。

パンづくりも同じです。

本書が扱っているのは、単にパンを上手につくるためのレシピではありません。

「なぜそうなるのか」を知ることで、パンづくりそのものを理解していくための本なのだと思います。

パティシエにとっても、パンの科学は遠くない

「パンの本なら、パティシエには関係ないのでは?」

そう思う人もいるかもしれません。

しかし、洋菓子とパンには共通する材料や技術が数多くあります。

小麦粉、砂糖、卵、乳製品、油脂。

そして、混ぜる、こねる、発酵させる、焼く、冷やすといった工程。

もちろん、洋菓子とパンでは目的や製法に違いがあります。

だからこそ、隣の分野を知ることには意味があります。

自分が専門としている洋菓子を、少し離れたところから見直すきっかけになるからです。

以前紹介した『新版 お菓子「こつ」の科学』も、お菓子づくりにある「なぜ?」を科学的に考える一冊でした。

今回の『パン「こつ」の科学』は、その視点をパンづくりに広げてくれます。

お菓子とパン。

扱うものは違っても、「材料に何が起こっているのか」「なぜこの工程が必要なのか」と考える姿勢には共通する部分があります。

「こつ」は、経験だけではない

製菓や製パンの現場では、「こつ」という言葉をよく使います。

しかし、こつを「長年の経験だけで身につけるもの」と考えてしまうと、少しもったいないように思います。

経験によって身につく感覚はもちろんあります。

一方で、その感覚の裏側には、材料の性質や温度、化学変化、物理的な変化など、さまざまな現象があります。

それらを知ることで、経験してきたことを別の角度から整理することができます。

これは、すでに製菓を仕事にしている人にとってもおもしろい部分です。

新人の頃に「そういうものだから」と覚えていたことを、何年も経ってから理論的に理解すると、「だから、あのときあの作業をしていたのか」と納得できることがあります。

知識は、経験を否定するものではありません。

むしろ、経験してきたことを整理し、応用するための土台になるのだと思います。

お菓子もパンも、「なぜ?」から見てみる

Lumiaでは、栄養や食品について考えるときにも、単に「これは体にいい」「これは栄養がある」と覚えるだけではなく、「なぜそうなのか」を大切にしています。

たとえば、三大栄養素について知ることも、食品を別の角度から見るきっかけになります。

そして製菓の世界でも同じです。

小麦粉にはどんな性質があるのか。

油脂は生地の中でどんな役割をするのか。

砂糖を加えることで、何が変わるのか。

加熱することで、材料にはどんな変化が起こるのか。

こうした疑問を一つずつ考えていくと、「お菓子をつくる」という仕事が、単なる作業ではなく、材料の性質と変化を利用する仕事だということが見えてきます。

『パン「こつ」の科学』は、そんな「なぜ?」を考えるきっかけになる一冊です。

パンを専門にしている人だけでなく、製菓を学んでいる人や、材料や製菓理論をもう一度学び直したい人にも、興味深い本だと思います。

そして何より、普段当たり前に行っている作業を「なぜ?」という視点から見直すこと。

それだけでも、毎日の仕事が少し違って見えてくるのではないでしょうか。

『パン「こつ」の科学』書籍情報

著者:吉野精一
出版社:柴田書店
発行年月日:1993年7月6日
判型:A5判
頁数:240頁
ISBN:9784388251025

柴田書店によると、本書はパンづくりに関する疑問を一問一答形式で解説し、材料や製法、工程、トラブルなどを幅広く扱っています。

パンづくりの「なぜ?」を知りたい方は、こちらから詳しく見てみてください。

柴田書店「パン『こつ』の科学|食の総合出版社 柴田書店公式サイト」
https://www.shibatashoten.co.jp/view/item/000000000002?category_page_id=science

柴田書店「新版 お菓子『こつ』の科学|食の総合出版社 柴田書店公式サイト」
https://www.shibatashoten.co.jp/item/02511900

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