お菓子を作っていると、「なぜ?」と思う瞬間があります。
なぜ、卵を泡立てると生地が膨らむのか。
なぜ、同じ材料を使っていても、混ぜ方や温度が変わると仕上がりが変わるのか。
なぜ、焼くことで生地は固まり、香ばしい風味が生まれるのか。
パティシエとして長く仕事をしていると、こうしたことを経験から判断できるようになっていきます。
「今日は生地が少し重いな」
「この状態なら、もう少し混ぜたほうがいい」
「この温度では焼き上がりが変わりそうだ」
現場では、こうした判断がとても重要です。
でも、その先にある「なぜそうなるのか」を考えてみると、お菓子づくりはとても面白いものになります。
お菓子づくりは「科学」とつながっている
お菓子づくりでは、さまざまな現象が起こっています。
卵を泡立てる。
小麦粉と水を合わせる。
砂糖やバターを加える。
生地を休ませる。
オーブンで加熱する。
冷やして固める。
一見すると、どれも単純な作業に見えるかもしれません。
しかし、それぞれの工程には理由があります。
材料の性質や温度、空気、水分、熱などが関係しながら、最終的なお菓子の形や食感、香りをつくっています。
だからこそ、製菓を学んでいると「レシピどおりに作る」だけではなく、「なぜこの工程が必要なのか」と考えることが大切になってきます。
これは、パティシエとして経験を積んでいくほど感じることです。
「混ぜる」という作業だけでも、実は奥が深い
例えば、「混ぜる」という作業。
お菓子づくりでは当たり前のように行いますが、何でも同じように混ぜればいいわけではありません。
材料を均一にするために混ぜる場合もあれば、空気を含ませるために混ぜる場合もあります。
逆に、混ぜすぎることで望ましくない状態になることもあります。
小麦粉を使った生地なら、混ぜることで生地の性質に変化が起こります。
卵を使った生地なら、泡立て方や気泡の状態が仕上がりに関係します。
バターを使った生地でも、温度や混ぜ方によって状態は変わります。
つまり、「混ぜる」という一つの動作にも、材料や目的によって違った意味があるのです。
こう考えると、普段何気なく行っている製菓作業も、少し違って見えてきませんか。
材料を知ると、お菓子の見え方も変わる
お菓子を理解するためには、材料について知ることも欠かせません。
それぞれの材料には、それぞれの性質があります。
例えばナッツなら、香ばしさや食感を加えるだけではありません。
製菓材料としての特徴を知ろうとすると、脂質やたんぱく質など、栄養面にも自然と目が向いてきます。
Lumiaでは、これまで三大栄養素や栄養の基本についても取り上げてきました。
お菓子を「健康」という視点から考えるときにも、まずは材料がどのようなものなのかを知ることが、その第一歩になります。
そして製菓の視点から見ると、そこにさらに「この材料は、お菓子の中でどんな仕事をしているのだろう?」という疑問が加わります。
栄養と製菓。
一見すると別々に見える二つの視点ですが、材料を入り口にすると、意外なところでつながっています。
経験だけでは説明できない「なぜ?」
パティシエの技術には、経験から身につく部分がたくさんあります。
何度も生地を触り、焼き上がりを見て、失敗を経験する。
その繰り返しによって、感覚が身についていきます。
私自身も、製菓の仕事を長く続ける中で、そうした経験の大切さを感じてきました。
ただ、経験だけでは説明しにくいこともあります。
「なぜ、この温度なのか?」
「なぜ、この順番なのか?」
「なぜ、ここでは混ぜすぎてはいけないのか?」
こうした疑問を科学的に考えてみると、今まで感覚で判断していたことが、少しずつ言葉として理解できるようになります。
そして、理解できるようになると、別の条件に変わったときにも応用しやすくなります。
これは、製菓を仕事にするうえで大きな意味を持つと思います。
「なぜ?」を知ると、レシピの見方が変わる
レシピには、材料と分量、そして作業工程が書かれています。
しかし、レシピに書かれている数字や工程をそのまま覚えるだけでは、すべての状況に対応できるとは限りません。
例えば、室温が違う。
材料の温度が違う。
使用する機械が違う。
生地の状態が少し違う。
そうした変化が起きたとき、「なぜこの工程を行っているのか」を理解していれば、状況を見ながら判断することができます。
だからこそ、製菓を学ぶときには、レシピと一緒に「なぜ?」を学ぶことが大切なのだと思います。
これは、初心者だけに必要な考え方ではありません。
むしろ、経験を積んだパティシエが改めて基本を見直すときにも、大きな発見があります。
「お菓子のなぜ?」をもっと知りたくなったら
こうしてお菓子の一つひとつの工程を考えていくと、次々に疑問が出てきます。
なぜスポンジ生地は膨らむのか。
なぜシュー生地は中が空洞になるのか。
なぜクッキーはサクサクになるのか。
なぜメレンゲは泡立つのか。
なぜチョコレートは温度によって状態が変わるのか。
こうした疑問を一つひとつ調べていくと、製菓は「職人の経験」だけで成り立っているものではなく、材料の性質や物理・化学的な現象が複雑に組み合わさっていることに気づきます。
そして、「もっと体系的に知りたい」と思ったときに、手元に置いておきたい本があります。
それが、中山弘典さんと木村万紀子さんによる『科学でわかるお菓子の「なぜ?」―基本の生地と材料のQ&A231』です。
お菓子の疑問を、科学から考えてみる
この本のタイトルにある「なぜ?」という言葉は、製菓を学ぶうえでとても重要なキーワードだと思います。
お菓子づくりで起こる現象について、「こうするものだから」と覚えるのではなく、「なぜそうなるのか」と考えてみる。
その視点を持つことで、普段の製菓作業にも違った発見が生まれます。
本書では、基本の生地や材料について、さまざまな疑問をQ&A形式で取り上げています。
「なぜ?」から入っていけるので、専門的な内容をただ暗記するのではなく、身近な製菓現象から理解を深めていけるのが、この本の面白いところです。
パティシエを目指している人にとってはもちろん、すでに製菓の仕事をしている人が「そういえば、なぜだろう?」と感じたときにも、手に取ってみたくなる一冊です。
お菓子を「作る」から「理解する」へ
お菓子づくりは、技術だけを身につければ終わりというものではありません。
材料を知る。
製法を知る。
温度を知る。
そして、その結果として何が起こるのかを考える。
そうすることで、これまで感覚で行っていた作業にも意味が見えてきます。
「なぜ?」という疑問は、製菓を難しくするものではありません。
むしろ、お菓子をもっと面白くしてくれる入口です。
いつものレシピを見ながら、「なぜ、この順番なんだろう?」と考えてみる。
焼き上がったお菓子を見ながら、「なぜ、この食感になったんだろう?」と考えてみる。
そんな小さな疑問から、製菓の奥深さが見えてくることがあります。
『科学でわかるお菓子の「なぜ?」』は、そんな「なぜ?」をもう一歩深く掘り下げたいときに、きっと面白い存在になるはずです。
お菓子を作る人にとっても、お菓子を食べる人にとっても。
「なぜ?」という視点を持ってお菓子を見てみると、いつもの一品が少し違って見えてくるかもしれません。




