なぜお菓子は膨らむ?「空気的膨張作用」の仕組みをパティシエが解説

洋菓子・製菓

ケーキを焼くと、生地はオーブンの中でふんわりと膨らみます。

では、なぜお菓子の生地は膨らむのでしょうか?

ベーキングパウダーを使っているから、イーストを使っているから……。もちろん、それも理由のひとつです。

しかし、パータ・ジェノワーズやメレンゲを使ったお菓子の中には、焼く前の生地に取り込んだ「空気」が膨らむことが、大きな役割を果たしているものがあります。

今回は、お菓子が膨らむ仕組みを理解するために、まず「空気的膨張作用」という視点から見ていきましょう。

「空気的膨張作用」とは?

今回の記事では、焼く前の生地に取り込まれた空気を利用して、生地を膨らませる仕組みを「空気的膨張作用」と呼びます。

これは、製菓科学で統一された正式な分類名というよりも、お菓子が膨らむ仕組みを分かりやすく整理するための考え方です。

代表的なのが、卵を泡立てて作るパータ・ジェノワーズです。

卵を泡立てると、生地の中にたくさんの細かな気泡が取り込まれます。

その状態で焼成すると、気泡内の気体が加熱によって膨張します。また、生地中の水分が加熱されることで水蒸気も発生します。

こうした変化によって気泡が大きくなり、生地全体が押し広げられていきます。

ただし、「空気が膨張するから、それだけでケーキが膨らむ」と考えるのは少し単純です。

膨らんだ状態を保つためには、生地そのものが固まっていくことも重要になります。

まずは「空気を入れる」ことから始まる

パータ・ジェノワーズを作るとき、卵を泡立てる工程があります。

このとき、泡立て器などで卵液を攪拌すると、卵液の中に空気が取り込まれます。

すると、卵液の中に細かな気泡がたくさんできてきます。

ここで大切なのは、単純に「たくさん空気を入れればいい」というわけではないことです。

どのような大きさの気泡ができているのか。

その気泡がどれくらい安定しているのか。

そして、粉類などを加えた後も、その気泡をどれだけ残せるのか。

これらが焼き上がった生地の状態に関係してきます。

実際にスポンジケーキを扱った研究でも、卵泡沫の性状や生地中の気泡が、ケーキの膨化や組織に関係することが報告されています。

焼くと、気泡はどうなる?

では、オーブンに入れると何が起こるのでしょうか。

生地が加熱されると、内部の気体は温度上昇によって膨張します。

さらに、生地に含まれている水分も加熱され、温度が上がるにつれて水蒸気が発生します。

つまり、焼成中の生地では、

「もともと入っていた気泡」

「加熱による気体の膨張」

「水分から発生する水蒸気」

といった変化が同時に起こっています。

これによって、生地内部の気泡が大きくなり、生地を内側から押し広げていきます。

これが、お菓子が「ふんわり膨らむ」ための重要な仕組みのひとつです。

では、なぜ膨らんだままになるのか?

ここが、お菓子作りで面白いところです。

気泡が膨らむだけなら、オーブンから出した瞬間に元へ戻ってしまいそうですよね。

実際には、焼成中に生地の構造も変化しています。

卵のたんぱく質などが加熱によって変性し、生地の骨格が形成されていきます。

さらに、小麦粉に含まれる成分なども加熱によって変化します。

こうして、膨張した気泡を含んだ生地の構造が徐々に固定されていきます。

つまり、

「気泡が膨らむ」

だけではなく、

「膨らんだ状態を生地が支える」

ことが必要なのです。

メレンゲも同じように「気泡」がポイント

空気を利用する代表的なお菓子は、パータ・ジェノワーズだけではありません。

メレンゲも、その代表例です。

卵白を泡立てると、卵白の中に大量の空気が取り込まれます。

このとき、卵白に含まれるたんぱく質が気泡の周囲に集まり、泡を安定させる働きをします。

だからこそ、メレンゲでは「どれくらい泡立てたか」だけでなく、「どのような泡になっているか」が重要になります。

泡立て方によって、気泡の大きさや状態は変わります。

パティシエがメレンゲを見たり触ったりして状態を判断するのは、単に「泡立っているか」を確認しているわけではありません。

焼成後の食感やボリュームにつながる、気泡の状態を見ているのです。

パティシエにとって「空気」は材料のひとつ?

少し違った見方をすると、お菓子作りでは「空気」も材料のような役割を持っています。

もちろん、空気を計量して加えるわけではありません。

しかし、卵を泡立てる、メレンゲを作る、クリームをホイップする。

これらの工程では、空気をどのように取り込むかによって、最終的な食感やボリュームが変わります。

特にパータ・ジェノワーズでは、泡立てた卵の状態を見ながら粉類を合わせる必要があります。

せっかく作った気泡を混ぜる工程で壊してしまえば、焼き上がった生地にも影響します。

「空気を入れる」だけではなく、

「気泡を作る」

「気泡を保つ」

「加熱によって膨らませる」

「膨らんだ状態を生地で支える」

という一連の流れを見ることが、製菓では重要なのです。

お菓子が膨らむ理由は「空気」だけではない

ここまで見ると、「お菓子が膨らむ=空気」という印象を持つかもしれません。

しかし、実際のお菓子にはさまざまな膨張の仕組みがあります。

ベーキングパウダーなどの膨張剤によってガスを発生させるもの。

イーストなどの微生物の働きを利用するもの。

そして、今回紹介したように、泡立てによって生地に取り込んだ空気を利用するもの。

見た目はどれも「膨らんだお菓子」ですが、その中で起きていることは同じではありません。

だからこそ、「なぜこのお菓子は膨らむのか?」と考えてみると、お菓子作りはさらに面白くなります。

まとめ

今回の「空気的膨張作用」を簡単にまとめると、

空気を取り込む → 気泡を安定させる → 加熱する → 気体の膨張や水蒸気の発生によって気泡が大きくなる → 生地がその状態を支える

という流れになります。

パータ・ジェノワーズやメレンゲを作るとき、私たちは「泡立て」という作業をしています。

しかし、その泡立てによって作っているものは、単なる泡ではありません。

焼き上がったお菓子のボリュームや食感につながる「気泡の構造」を作っているのです。

普段何気なく行っている泡立てを、少し科学的な視点から見てみる。

それだけでも、お菓子作りの見え方は変わってきます。

次回は、ベーキングパウダーなどの膨張剤が関係する「科学的膨張作用」について見ていきます。

参考文献・参考資料

・前田智子・浅川具美・森田尚文「スポンジケーキの調製における卵泡沫の性状におよぼすバター添加温度の影響」『日本家政学会誌』50巻11号、1999年、1139-1148頁
J-STAGEで論文を見る

・吉岡慶子・福地乃理子・横山次郎・戸渡資英「卵の起泡性の相違がスポンジケーキの膨化とそれらの食味評価に及ぼす影響」『日本家政学会研究発表要旨集』57回大会、2005年
J-STAGEで論文を見る

・村田安代・岡本純代・小林トミ・寺元芳子「卵白の泡だて程度とケーキの性状について(第1報)」『日本家政学会誌』36巻3号、1985年、151-160頁
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・松元文子・向山りつ子「卵白の泡立に関する研究(第一報)―卵白の気泡―」『日本家政学会誌』7巻3号、1956年、115-120頁
J-STAGEで論文を見る

・中村恵子・安井翠子・大場千代子「卵白メレンゲの空気含有量におよぼす砂糖添加の影響」『日本調理科学会大会研究発表要旨集』16回大会、2004年
J-STAGEで論文を見る

・宮下朋子・長尾慶子「フレンチメレンゲの性状や嗜好性に及ぼす気泡の影響と嚥下困難者用食品への利用適性」『日本家政学会誌』64巻11号、2013年、725-732頁
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