牛乳、生クリーム、チーズ、ヨーグルト。
これらは、私たちパティシエにとって非常に身近な材料です。ケーキの生地に牛乳を加え、生クリームを泡立て、チーズを使って味わいを作る。洋菓子づくりに欠かせない存在といってもよいでしょう。
一方、栄養の視点から乳製品を見ると、カルシウムやたんぱく質など、製菓とは異なる情報が見えてきます。
私は、材料を理解するうえで、こうした視点の切り替えが面白いと感じています。
今回はカルシウムを入り口に、乳製品の栄養的な特徴と、パティシエが材料を見るときの考え方を整理してみます。
カルシウムは骨や歯だけの栄養素ではない
カルシウムは、人体に最も多く含まれるミネラルです。
体内のカルシウムの大部分は骨や歯に存在し、その構成成分として重要な役割を担っています。
しかし、カルシウムの働きは骨や歯だけに限りません。筋肉の収縮や神経の働き、血液凝固などにも関わっています。
「カルシウム=骨」というイメージは間違いではありませんが、それだけでは十分な理解とはいえません。
栄養素について学ぶときには、よく知られている働きだけでなく、身体の中でどのように関わっているのかを知ることが大切です。
パティシエにとって、乳製品はまず製菓材料です
ここからは、製菓の視点で乳製品を考えてみます。
牛乳を使うとき、パティシエが最初に考えるのはカルシウムの量ではありません。
生地にどの程度の水分を加えるのか。乳成分が風味や焼き上がりにどう関係するのか。ほかの材料とどのように組み合わせるのか。
そうした製菓上の役割を考えます。
生クリームなら、乳脂肪分や泡立てたときの状態、口溶けが重要になります。チーズなら、種類によって異なる酸味やコク、香り、水分などが仕上がりに影響します。
同じ乳製品でも、材料としての性質は一様ではありません。
私は、材料を選ぶときには「乳製品だから」という分類だけでなく、実際にどのような性質を持っているのかを考えることが重要だと思っています。
栄養の視点から見ると、乳製品の別の特徴が見えてくる
乳製品を栄養面から見ると、カルシウムを含む食品として知られています。
牛乳やヨーグルト、チーズなどは、カルシウムの供給源として日常の食生活に取り入れられています。
ただし、乳製品ならすべて同じ量のカルシウムを含んでいるわけではありません。
牛乳、ヨーグルト、チーズでは、製造方法や水分量、原料、製品の種類が異なります。そのため、栄養成分にも違いがあります。
チーズは種類によってカルシウム量に差があり、食塩相当量など、ほかの栄養成分にも目を向ける必要があります。
つまり、「乳製品だからカルシウムが豊富」と大まかに捉えるだけでは、食品の特徴を十分に理解できません。
食品成分を具体的に知りたい場合は、文部科学省の食品成分データベースなどで、対象となる食品や製品の種類を確認することが大切です。
牛乳・生クリーム・チーズは、同じ乳製品でも違う
製菓材料として考えると、乳製品の違いはさらに明確になります。
牛乳は、生地やクリームなどに水分や乳成分を加える材料として使われます。
生クリームは、乳脂肪分を生かして泡立てたり、ムースやガナッシュなどに使用したりします。乳脂肪分や温度、泡立て具合によって、状態や口溶けが変わります。
チーズは、種類によって酸味、香り、塩味、コクなどが異なります。チーズケーキを作るときも、使用するチーズによって味わいや食感が変わります。
これらを栄養面から見ると、カルシウムやたんぱく質、脂質などの情報が加わります。
同じ材料でも、製菓の視点と栄養の視点では注目するポイントが異なります。
私は、この違いを知ることが食材を学ぶ面白さだと考えています。
カルシウムは乳製品だけから摂るものではない
カルシウムを含む食品として乳製品は身近ですが、カルシウムの供給源は牛乳やチーズだけではありません。
小魚、大豆製品、緑黄色野菜などにもカルシウムは含まれています。
食生活を考えるときには、特定の食品だけに注目するのではなく、普段どのような食品を組み合わせているのかを見渡すことが大切です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、カルシウムの推奨量が年齢や性別ごとに設定されています。例えば、30〜49歳では男性750mg/日、女性650mg/日です。
これはあくまで集団を対象とした食事摂取基準であり、個人の健康状態や食生活を直接判断するものではありません。
栄養素の必要量は、年齢や性別などによって異なります。特定の食品を食べれば十分と考えるのではなく、食事全体のバランスを考えることが基本です。
カルシウムを含むから、チーズケーキは健康に良いのか
ここで、パティシエとして考えておきたいことがあります。
チーズにはカルシウムが含まれています。では、チーズを使ったチーズケーキも、カルシウムを含むから健康に良い食品といえるのでしょうか。
私は、材料に含まれる栄養素だけで、お菓子全体の価値を判断することはできないと考えています。
チーズケーキは、チーズだけで作られているわけではありません。砂糖、卵、生クリーム、小麦粉など、さまざまな材料が組み合わされています。
配合や製法によって、栄養成分も変わります。
「カルシウムを含むチーズを使っている」という情報だけでは、お菓子全体の栄養的な特徴を説明することはできません。
お菓子は、栄養素の補給だけを目的に作るものではありません。味、香り、食感、見た目、そして食べる楽しさも大切な要素です。
Lumiaでは、お菓子を無理に健康食品として扱うのではなく、お菓子の魅力を大切にしながら、食材や栄養について正しく理解することを目指します。
材料を知ることは、食材を見る目を広げること
カルシウムは、身体に必要なミネラルの一つです。乳製品は、そのカルシウムを含む身近な食品です。
しかし、パティシエにとって乳製品は、まずお菓子を作るための材料です。
牛乳なら水分や乳成分、生クリームなら乳脂肪と泡立ち、チーズなら風味や口溶け。材料ごとの特徴を理解することが、製菓の技術につながります。
そこに栄養の視点を加えると、カルシウムやたんぱく質など、別の情報も見えてきます。
私は、材料を一つの視点だけで判断しないことが大切だと思っています。
おいしさを作るための知識と、食材そのものを理解するための知識。その両方を持つことで、いつもの材料がもっと面白くなります。
乳製品を扱うとき、製菓材料としての役割を考える。そのうえで、栄養の視点からも特徴を知る。
こうした積み重ねが、パティシエとしての材料への理解を深めてくれるのではないでしょうか。


