焼き菓子店は商品を絞るべき?小さな店が専門性を高める商品づくり

本から学ぶ

焼き菓子店を開くとしたら、どんな商品を並べたいでしょうか。

フィナンシェ、マドレーヌ、クッキー、パウンドケーキ、スコーン。さらに季節限定商品やギフトセットも用意できれば、お客様に選ぶ楽しさを提供できます。

しかし、限られた人数と設備で店を運営する場合、品ぞろえを増やすことが必ずしも強みになるとは限りません。

私は、焼き菓子店の商品づくりでは、何種類の商品を販売するかだけでなく、その店だからこそ買いたいと思ってもらえる商品があるかが重要だと考えています。

商品数が多いことと、店の魅力が伝わることは別です

商品数が多ければ、お客様のさまざまな好みに対応できます。一方で、種類を増やすほど、仕込みの工程や必要な材料、製造時間、在庫管理なども複雑になります。

例えば、フィナンシェとマドレーヌは、どちらも焼き菓子ですが、材料の配合や製造工程、焼成条件は異なります。さらにクッキーやパウンドケーキを加えれば、それぞれの生地に適した仕込みや焼成の管理が必要です。

商品を増やすこと自体が問題なのではありません。問題になるのは、増やした商品を安定した品質で製造し、販売できる仕組みが整っていないことです。

小規模な店舗では、製造担当者が限られる場合もあります。商品数を増やした結果、仕込みに追われて一つひとつの商品を改善する時間がなくなれば、本来高めたかった品質まで犠牲になる可能性があります。

だからこそ、最初に考えたいのは、何を作れるかではなく、何を強みにする店なのかということです。

看板商品は、店の専門性を伝える手段になります

小さな焼き菓子店が専門性を高める方法の一つに、特定の商品を看板商品として育てることがあります。

例えば、フィナンシェを中心に展開する店なら、焦がしバターの香り、外側の焼き色、内側のしっとり感など、商品を構成する要素を徹底的に研究できます。

私自身、フィナンシェのおいしさを考えるうえでは、焦がしバターの香りと焼成によって生まれる食感を大切にしています。単に形が整っているだけではなく、その菓子ならではの魅力が明確に感じられることが重要です。

もちろん、看板商品を一つ決めれば、それだけで店の経営が成功するわけではありません。価格、需要、製造能力、販売方法なども考慮する必要があります。

それでも、中心となる商品が明確であれば、開発の方向性を定めやすくなります。材料の選定や配合の調整、焼成条件の検証など、改善すべきポイントも具体的になります。

専門性とは、珍しい商品を扱うことだけではありません。よく知られた菓子であっても、その店ならではのおいしさを追求し、安定して提供することも専門性の一つです。

商品を絞ると、製造工程の改善にも取り組みやすくなります

商品構成を考えるときは、お客様から見た魅力だけでなく、製造現場の視点も欠かせません。

商品数を整理すると、共通する材料をまとめて発注したり、仕込みの順序を見直したり、オーブンの使用計画を立てたりしやすくなる場合があります。

ただし、使用する材料が共通しているからといって、製造効率が必ず上がるわけではありません。異なる生地の仕込みや焼成を組み合わせる場合には、作業時間や設備の条件まで確認する必要があります。

私なら、まず各商品の製造工程を洗い出します。仕込みにかかる時間、焼成時間、冷却に必要な時間、包装にかかる時間を整理し、どこに負担が集中しているかを確認します。

そのうえで、製造工程を共通化できる商品があるか、仕込みの順序を変えられるか、品質を維持しながら作業を簡略化できるかを検討します。

大切なのは、作業時間を短くすることだけを目標にしないことです。製造効率を改善しても、焼き上がりや食感、香りが損なわれてしまえば意味がありません。

製菓技術と製造効率は、別々に考えるものではなく、品質を守りながら両立させるものだと考えています。

品ぞろえを増やす前に、確認したい三つのこと

新しい商品を追加するときは、次の三つを確認すると判断しやすくなります。

一つ目は、お客様がその商品を求めているかどうかです。自分が作りたい菓子であることは大切ですが、それだけで販売につながるとは限りません。店頭での反応や販売実績、問い合わせなどから需要を確かめます。

二つ目は、既存の商品と役割が重複していないかです。新商品を追加することで選択肢が広がるのか、それとも既存商品と似た役割の商品が増えるだけなのかを考えます。

三つ目は、品質を維持して製造できるかどうかです。材料の保管、仕込み、焼成、冷却、包装、販売までの工程を考え、無理なく運用できるかを確認します。

この三つを満たす商品であれば、品ぞろえを増やす意味があります。反対に、どれか一つでも課題があれば、商品化の前に改善策を考える価値があります。

小さな店だからこそ、商品づくりに考えを反映できる

小規模な焼き菓子店には、設備や人員、製造量に制約がある一方、お客様との距離が近く、店主の考えを商品や店づくりに反映しやすいという特徴があります。

もちろん、小規模であれば経営が容易になるわけではありません。限られた経営資源をどう配分するかという判断は、むしろ重要になります。

だからこそ、何を作り、誰に届け、どのような価値を感じてもらいたいのかを明確にする必要があります。

製菓の仕事は、おいしい菓子を作る技術だけで完結するものではありません。その技術をどの商品に生かし、どのような形でお客様に届けるのかまで考えることで、菓子づくりの可能性は広がります。

今回取り上げたテーマに関連する一冊が、柴田書店の『cafe-sweets vol.235』です。

特集は「小さくても魅力満載の、カフェ&ベイクショップ」。新しいカフェや焼き菓子店の取材を通して、商品づくりや専門性、店づくりのあり方を考えることができます。

自分の店を持ちたい方はもちろん、製菓の仕事に携わる方にとっても、商品を作る技術だけでなく、その商品をどのように店の魅力へつなげるかを考えるきっかけになる一冊です。

レシピを学ぶときも、商品を開発するときも、作り方だけでなく「なぜこの商品を作るのか」という視点を持ってみてください。その問いが、自分ならではの菓子づくりにつながっていくはずです。

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