パウンドケーキ、マドレーヌ、フィナンシェなど、洋菓子には「バター」を使った生地がたくさんあります。
焼き上がったお菓子を食べると、しっとりしていたり、ほろっと崩れたり、口の中でバターの香りが広がったりします。
では、なぜ同じ小麦粉を使っていても、パータ・ジェノワーズのようなふんわりした生地とは、まったく違う食感になるのでしょうか。
その秘密は、バターを中心とした「生地のつくり方」にあります。
バター生地は「バター」が生地をつくる
バター生地の代表的なお菓子といえば、パウンドケーキです。
基本的には、バター、砂糖、卵、小麦粉といった材料を組み合わせてつくります。
ここで大切なのは、単に材料を混ぜればよいわけではないということです。
バター生地では、バターの状態や、砂糖・卵を加えるタイミング、混ぜ方によって、生地の状態が大きく変わります。
例えば、バターを適度なやわらかさにして砂糖とすり合わせると、バターの中に細かな空気を抱き込ませることができます。
その後、卵を加えていきます。
ここで重要になるのが「乳化」です。
バターは油脂、卵には水分が含まれているため、単純に一度に加えると分離しやすくなります。
パティシエは卵の温度や加える量、生地の状態を見ながら、少しずつ加えていきます。
そして最後に小麦粉を加える。
この段階では、混ぜすぎれば小麦粉のグルテンが形成され、生地が締まりやすくなります。
つまり、バター生地のおいしさは「何を入れるか」だけではなく、「どの状態で、どのように混ぜるか」によって決まるのです。
パータ・ジェノワーズとは、ここが違う
ここで、以前の記事で紹介した「パータ・ジェノワーズ」と比べてみると、違いが分かりやすくなります。
パータ・ジェノワーズでは、卵と砂糖を泡立ててつくる「卵の起泡」が、生地を膨らませる大きな役割を担っています。
一方、バター生地では、バターを砂糖と合わせる工程や、材料を乳化させる工程などが生地の状態を左右します。
同じ「卵・砂糖・小麦粉」を使っていても、つくり方が変われば、ふんわりした生地にも、しっとりした生地にもなる。
これが洋菓子の面白いところです。
実際に、研究でも卵を泡立ててつくるスポンジ生地と、バターを起泡させてつくるパウンド系の生地では、調製方法そのものが異なり、焼き上がりの性質にも違いが生じることが報告されています。
以前紹介した「パータ・ジェノワーズ」を読んでからこの記事を読むと、「材料が同じでも、生地をつくる考え方が違う」ということが、より分かりやすいと思います。
「しっとり・ほろっと」は、材料の組み合わせから生まれる
では、バター生地の特徴である「しっとり・ほろっとした食感」は、どこから生まれるのでしょうか。
まずバターは、焼き菓子に豊かな風味を与えるだけでなく、小麦粉の成分を油脂で包み込むことで、生地の食感にも影響します。
生地中の水分との関係や焼成時の変化などを通して、焼き上がりの食感にも関わっています。
卵は水分とたんぱく質を持ち、材料をつなぎ合わせる役割を担います。
そして小麦粉は、生地の骨格をつくる存在です。
それぞれの材料には役割がありますが、重要なのは「単独の働き」ではありません。
バター、砂糖、卵、小麦粉がどのような割合で組み合わされ、どのように混ぜられるかによって、焼き上がったときの食感が変わります。
だからこそ、同じバター生地でも、パウンドケーキはしっとり、マドレーヌはふんわり、フィナンシェは外側が香ばしく中がしっとり、といった違いが生まれるのです。
バター生地を「栄養」の視点から見ると?
ここまで読んで、「バターをたくさん使うお菓子だから、やっぱりカロリーが高いのでは?」と思う方もいるかもしれません。
その考え方は間違いではありません。
バターは脂質を多く含み、砂糖もエネルギー源となるため、バターを多く使う焼き菓子は、少量でもエネルギーを摂りやすい食品です。
ただし、「高カロリーだから食べてはいけない」と考える必要もありません。
洋菓子は、食事そのものではなく、日々の食生活の中で楽しむ食品のひとつです。
大切なのは、何をどれだけ食べるか。
例えば、パウンドケーキを一切れ食べたからといって、それだけで食生活全体が決まるわけではありません。
一日の食事全体を見ながら、主食・主菜・副菜などから必要な栄養素を確保し、そのうえで洋菓子を楽しむ。
「栄養」と「お菓子」を対立させるのではなく、上手に付き合っていくことが大切です。
パティシエから見ると、バター生地は「混ぜ方」が面白い
バター生地をつくるとき、パティシエが見ているのはレシピに書かれた数字だけではありません。
バターはどのくらいの硬さなのか。
乳化した生地はきれいにつながっているか。
小麦粉を加えた後、生地をどこまで混ぜるのか。
こうした小さな違いが、焼き上がったお菓子の食感や口どけに影響します。
だから、バター生地は「材料を混ぜて焼けば完成」という単純なものではありません。
材料の性質を理解し、その状態を見極めながら生地をつくる。
そこにパティシエの技術があります。
パータ・ジェノワーズが「卵の泡」を活かした生地だとすれば、バター生地は「バターと材料の組み合わせ」を活かした生地。
同じ洋菓子でも、生地の考え方は大きく違います。
次に洋菓子を食べるときには、ぜひ「この食感は、どんな生地のつくり方から生まれているのだろう?」と考えてみてください。
いつもの焼き菓子が、少し違って見えてくるかもしれません。
参考文献・参考資料
・藤井淑子・林ひろみ・島田淳子・吉松藤子「パウンドケーキの品質に与える攪拌の影響について」『日本家政学会誌』30巻6号、1979年、505-510頁。
J-STAGEで論文を見る
・「スポンジケーキの性状」『調理科学』27巻1号、1994年。
J-STAGE掲載論文(PDF)
・川染節江・三木英三・合谷祥一・山野善正「バタースポンジケーキの生地の物性と組織に及ぼすバター含量の影響」『日本食品工業学会誌』39巻3号、1992年、245-252頁。
J-STAGEで論文を見る
・文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 食品成分データベース」
食品成分データベース

