洋菓子を作るとき、「油脂」は欠かせない材料のひとつです。
バター、マーガリン、ショートニング、植物油。
そして、チョコレートに使われるココアバターも油脂です。
では、油脂はお菓子の中で何をしているのでしょうか。
実は、油脂は単に「コクや風味を加える材料」ではありません。
お菓子の食感をつくる材料でもあります。
今回は、パティシエの視点から油脂の役割を考えてみます。
油脂とは?
油脂とは、食品に使われる油や脂の総称です。
常温で液体のものを「油」、固体のものを「脂」と呼ぶことがありますが、食品ではまとめて「油脂」と表現することがあります。
洋菓子で使われる油脂には、バター、マーガリン、ショートニング、植物油などがあります。
それぞれ性質が違います。
だからこそ、作るお菓子によって使い分けます。
油脂は「食感」をつくる
油脂の大きな役割のひとつが、食感をつくることです。
たとえばクッキー。
油脂の種類や性質によって、生地の硬さや焼き上がりの食感が変わります。
「サクッ」とした食感。
「ほろっ」と崩れる食感。
「しっとり」した食感。
こうした違いにも、油脂が関係しています。
研究でも、油脂の固体脂の割合などによってクッキー生地の硬さや焼き上がりの性質が変わることが確認されています。
つまり油脂は、お菓子の食感を設計するための材料なのです。
バターは「風味」だけではない
洋菓子で特に身近な油脂がバターです。
バターと聞くと、まず「バターの風味」を思い浮かべるかもしれません。
もちろん風味は大切です。
しかし、バターにはそれだけではない役割があります。
生地に加えることで、焼き菓子の食感や口当たりにも影響します。
たとえば、パウンドケーキやマドレーヌなどの焼き菓子。
これらのお菓子では、バターの状態や混ぜ方も仕上がりに関係します。
以前紹介した「バター生地」でも、油脂の性質が生地づくりに重要なことを紹介しました。
油脂を知ると、バター生地を見る目も少し変わってきます。

マーガリンとショートニングは何が違う?
洋菓子では、バター以外の油脂も使われます。
その代表がマーガリンとショートニングです。
どちらも製菓・製パンに利用される油脂ですが、商品によって硬さや融け方などの性質が異なります。
そのため、
「どちらが優れているか」
というより、
「どのお菓子に、どの性質の油脂を使うか」
という考え方が大切です。
パティシエにとって油脂は、単なる材料ではありません。
作りたい食感や作業性に合わせて選ぶ材料でもあります。
ココアバターも「油脂」
ここで、チョコレートを思い出してみましょう。
チョコレートの原料には「ココアバター」があります。
ココアバターはカカオ豆由来の油脂です。
そして、このココアバターはチョコレートの「口溶け」や「硬さ」に深く関係しています。
チョコレートをきれいに仕上げるために行うテンパリングも、ココアバターの結晶状態をコントロールする作業です。
つまり、チョコレートも油脂の性質を利用してつくられているお菓子なのです。
「油脂」と聞くとバターや植物油を思い浮かべがちですが、ココアバターまで含めると、洋菓子との関係がさらに広がります。
油脂は「温度」にも左右される
油脂を理解するとき、もうひとつ重要なのが「温度」です。
バターは冷たいと硬くなります。
温度が上がると柔らかくなり、さらに温度が上がれば溶けていきます。
この性質は、製菓の作業にも大きく関係します。
バターをどのくらい柔らかくするのか。
どの温度で生地を混ぜるのか。
焼成すると、油脂はどう変化するのか。
同じ材料でも、温度によって扱いやすさや仕上がりが変わります。
だからパティシエは、材料の「量」だけではなく「状態」も見ています。

油脂は「おいしさ」と「栄養」の両方から考える
油脂は、お菓子のおいしさを支える材料です。
一方で、栄養の面から見ることも大切です。
脂質は、たんぱく質や炭水化物と並ぶエネルギー産生栄養素のひとつです。
そのため、油脂を使った食品はエネルギー量にも関係します。
ただし、
「油脂は多いから悪い」
と単純に考える必要はありません。
大切なのは、どの食品から、どのくらい摂るのかを考えることです。
お菓子を楽しむときも、油脂の役割を知っていれば、材料を少し違った視点から見ることができます。
パティシエから見る「油脂」
洋菓子にとって、油脂はとても面白い材料です。
風味を加える。
食感を変える。
生地の性質を変える。
口溶けをつくる。
そして、温度によって状態も変わる。
つまり油脂は、「お菓子の食感や口当たりを設計する材料」と考えることができます。
バター生地、クッキー、パイ、タルト、クリーム、チョコレート。
見ていくと、さまざまなお菓子で油脂が活躍しています。
これまで「バターを入れるとおいしくなる」と考えていたお菓子も、
「なぜ、この油脂を使うのだろう?」
という視点で見ると、製菓の世界が少し面白くなります。
油脂は、洋菓子のおいしさを支えるだけではありません。
食感をつくり、口溶けをつくり、お菓子そのものの個性をつくる材料なのです。

参考文献・参考資料
・和田淑子・橋本慶子「クッキー生地作成過程における油脂の機能」『日本栄養・食糧学会誌』40巻6号、1987年、505-508頁
J-STAGE(論文ページ)
・倉賀野妙子・和田淑子「固体脂指数,脂肪酸組成の異なる油脂を用いたクッキーの物性」『日本家政学会誌』41巻11号、1990年、1031-1037頁
J-STAGE(論文ページ)
・倉賀野妙子・和田淑子・木原浩「固体脂指数,脂肪酸組成の異なる油脂を用いたクッキーの物性(第2報)―クッキーのショートネスに関与する油脂の性質―」『日本家政学会誌』42巻7号、1991年、611-620頁
J-STAGE(論文ページ)
・伊藤友美・安達卓生・山田哲也「クッキー様菓子中の澱粉特性に及ぼす各種油脂の影響」『日本食品科学工学会誌』55巻2号、2008年、56-62頁
J-STAGE(論文ページ)
・日本マーガリン工業会「ショートニングってなに」
日本マーガリン工業会
・文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
文部科学省「日本食品標準成分表」



