お菓子のおいしさを決めるものは、何でしょうか。
甘さ、酸味、香り、見た目。もちろん、これらは大切です。
でも、パティシエとして仕事をしていると、もう一つ欠かせないものがあると感じます。
それが「食感」です。
サクッ、ふわっ、パリッ、とろっ、なめらか。
同じ材料を使ったお菓子でも、食感が変わるだけで、食べたときの印象は大きく変わります。
私自身、これまでパティシエとしてさまざまなお菓子を作ってきましたが、食感は「レシピ通りに作れば必ず同じになるもの」ではないと感じることがあります。
同じ配合でも、混ぜ方や生地の状態、焼成の加減によって仕上がりは変わります。
例えば、ビスキュイなら、卵の泡立て方や粉の合わせ方、混ぜる回数によって、軽さや弾力が変わります。
焼き菓子でも、焼成時間や温度、水分の残し方によって、外側の香ばしさと内側のしっとり感が変わります。
現場では、こうした違いを「食感」という感覚で判断する場面が少なくありません。
そして、その感覚を言葉にしてみると、そこにはきちんと製菓理論があります。
小麦粉ならグルテンの形成。
卵なら起泡性や加熱による凝固。
ゼラチンならゲル化。
生クリームなら乳脂肪と気泡による口当たりの変化。
チョコレートなら結晶化や乳化。
材料の性質を理解し、工程を調整することで、狙った食感に近づけていきます。
つまり、パティシエは材料を組み合わせているだけではありません。
「このお菓子を食べたとき、どんな食感を感じてもらいたいか」
そこから逆算して、材料や製法を選んでいるのです。
そんな「食感」について改めて考えるきっかけになったのが、柴田書店の『Pâtissier パティシエ vol.2』です。
この号の大きな特集は、「食感を知り、食感を生かす ―テクスチャーの妙を考える―」。
食感の基礎知識だけではなく、口溶けやプチガトーなど、実際のお菓子づくりにつながる内容も紹介されています。
製菓を学んでいると、つい「正しい作り方」を覚えることに意識が向きます。
もちろん、それは大切です。
私も仕事を始めた頃は、まずレシピ通りに作ること、その工程を正確に再現することを意識していました。
しかし、経験を重ねるほど、「なぜこの工程なのか」「ここを変えると、どんな食感になるのか」と考えることが増えていきます。
同じレシピでも、季節や材料の状態、作業環境によって微調整が必要になることもあります。
そこで必要になるのが、単なる経験だけではなく、材料や製法を理解する知識です。
「もっと軽い食感にするにはどうするか」
「このサクサク感を、どうすれば最後まで残せるか」
「ムースの口溶けを変えるには、何を調整すればいいのか」
こうした問いを持つことで、レシピを再現するだけではなく、自分でお菓子を考える力につながっていきます。
パティシエの仕事は、お菓子を「作る」ことだけではありません。
味、香り、見た目、そして食感。
それらを組み合わせて、食べる人がどのように感じるのかまで考える。
そう考えると、一つのお菓子の中にある「サクッ」「ふわっ」「とろっ」という小さな変化にも、パティシエの技術や考え方が詰まっていることが分かります。
『Pâtissier パティシエ vol.2』は、普段何気なく使っている「食感」を、改めて製菓の視点から考えてみたくなる一冊です。
私自身も、長くお菓子を作ってきたからこそ、改めて「食感を知ることは、お菓子を知ることにつながる」と感じます。
お菓子を作る技術を、もう一歩深く考えてみたい。
そんなとき、「食感」という切り口から自分のお菓子を見直してみるのも面白いのではないでしょうか。




