シュークリームを割ったとき、中が空洞になっているのを見て、「どうしてこんな形になるのだろう?」と思ったことはありませんか。
外側はしっかり焼けているのに、中にはたっぷりのクリームを詰められる空間があります。
この特徴的な生地が、フランス菓子で「パータ・シュー(Pâte à choux)」と呼ばれる生地です。
シュークリームやエクレアをはじめ、パリ・ブレストなどにも使われる、洋菓子ではおなじみの生地です。
では、なぜパータ・シューは空洞になるのでしょうか。
その秘密を探ってみると、シュークリームの見慣れた姿の中に、製菓ならではの面白さが見えてきます。
「膨らむ」のではなく、空洞を作る
パータ・シューの大きな特徴は、焼き上がったときに内部が空洞になることです。
ここが、別記事で紹介した「パータ・ジェノワーズ」と大きく違うところです。
ジェノワーズでは、卵を泡立てて生地に気泡を抱き込ませ、その気泡を利用してふんわりとした生地に仕上げます。
一方、パータ・シューでは、水や牛乳などの水分と油脂、小麦粉を加熱して生地を作り、その後に卵を加えて状態を整えます。
そして焼成すると、生地中の水分が熱によって水蒸気となって膨張します。
このとき、生地の中に存在する気泡などを起点として内部から生地が押し広げられ、加熱によって生地そのものが固まっていきます。
その結果、外側には形を保つ生地の構造ができ、内部に空洞が生まれます。
つまり、シュー生地は単純に「生地が膨らんだ」というより、水分の変化と生地の構造形成によって、内部に空間を作る生地と考えると分かりやすいでしょう。
なぜ、最初に鍋で生地を作るの?
パータ・シューの製法で特徴的なのが、鍋を使うことです。
一般的には、水や牛乳、バターなどを加熱し、そこへ小麦粉を加えて練り上げます。
この工程によって、小麦粉に熱と水分が加わり、生地の状態が変化します。
その後、卵を加えて、生地の硬さや状態を調整していきます。
ここで重要なのが、「卵をどこまで加えるか」です。
レシピに「卵○個」と書かれていても、実際の製菓では、卵を一度に全部入れて終わりとは限りません。
生地の状態を見ながら加えていきます。
パティシエが見る「ちょうどいい生地」
パータ・シューは、卵の量によって生地の状態が変わります。
硬すぎれば、絞ったときにきれいな形を作りにくくなります。
反対に柔らかすぎれば、絞った形が崩れやすくなります。
そこでパティシエは、レシピに書かれた数字だけではなく、生地そのものを見ます。
ヘラですくったときの落ち方。
生地のツヤ。
絞り袋から出したときの状態。
こうした変化を確認しながら、必要に応じて卵の量を調整します。
研究でも、卵液を混ぜ込む際の条件が、シュー生地の気泡や膨化に影響することが報告されています。
つまり、「卵を入れればいい」のではなく、どんな状態の生地に仕上げるかが重要なのです。
なぜシュー生地は焼くと膨らむ?
オーブンに入れたシュー生地では、水分が熱せられます。
その水分が水蒸気となって膨張すると、生地の内部に圧力が生まれます。
一方、生地は加熱によって徐々に構造を作り、形を保つようになります。
そのため、内部では膨張が進みながら空間が形成され、外側にはシュー生地特有の殻ができていきます。
ここで大切なのは、水蒸気だけですべてが決まるわけではないということです。
生地中の気泡、生地に含まれる水分、加熱による生地の構造形成などが組み合わさって、シュー生地特有の膨化が生まれます。
シュークリームの空洞は、最初から用意されていたものではありません。
オーブンの中で、生地が変化する過程によって作られたものなのです。
焼き上がるまでが勝負
シュー生地は、膨らめば成功というわけではありません。
外側の生地が十分に形成され、内部の水分が適切に抜けていることも重要です。
十分に焼き固まっていない状態で取り出せば、内部の状態を保てず、しぼんでしまうことがあります。
だからパティシエは、単純に焼き時間だけを見るわけではありません。
生地の膨らみ方、表面の状態、焼き色、全体の焼き上がりなどを確認します。
「何分焼けば完成」という数字だけではなく、実際の生地を見ながら判断する。
ここにも製菓の難しさがあります。
シュークリームとエクレアは、同じ生地
パータ・シューの面白いところは、一つの生地からさまざまな洋菓子が生まれることです。
丸く絞ればシュークリーム。
細長く絞ればエクレア。
リング状に絞ればパリ・ブレスト。
形や仕上げ方、組み合わせるクリームを変えることで、まったく違ったお菓子になります。
パータ・シューそのものが主役になるというより、内部に空間を作れるという特徴を利用して、クリームやさまざまな素材を組み合わせられることが大きな魅力です。
シュー生地には、どんな材料が使われる?
基本的なパータ・シューには、小麦粉、卵、バターなどの油脂、水分が使われます。
それぞれに役割があります。
小麦粉は、生地の構造を作るための重要な材料。
卵は、水分を加えるだけでなく、生地の状態や焼き上がりの構造、風味にも関係します。
バターは風味を与え、油脂として生地の性質にも影響します。
そして水分は、焼成時の膨化に関わる重要な存在です。
材料だけを見ても、パータ・シューが単純な生地ではないことが分かります。
栄養から見ると、どうなの?
ここで少しだけ栄養にも目を向けてみましょう。
卵にはたんぱく質や脂質、小麦粉には炭水化物やたんぱく質、バターには主に脂質が含まれています。
ただし、シュークリームとして完成すると、さらにカスタードクリームや生クリーム、砂糖などが加わる場合があります。
そのため、「卵を使っているから健康的」というように、ひとつの材料だけを見て完成したお菓子を評価することはできません。
Lumiaでは、これからも食材の栄養だけを見るのではなく、その食材がどのように組み合わさり、一つのお菓子になっているのかにも注目していきます。
パータ・シューは「水分を操る生地」
パータ・シューを知ると、普段はあまり意識しない「水分」が、とても重要な存在だと分かります。
生地を作るときには水分と小麦粉を加熱し、焼成時にはその水分が水蒸気となって膨張する。
そして、生地が加熱によって形を保ちながら、内部に空間が作られていく。
シュークリームの空洞は、こうした変化の結果です。
目立たない水分が、シュー生地の特徴を生み出す。
ここにパータ・シューの面白さがあります。
パティシエにとって、シュー生地は観察の連続
パータ・シューは、レシピを守れば必ず同じものができる生地ではありません。
もちろん配合は重要です。
しかし、卵の状態、小麦粉の性質、加熱の具合、オーブンの状態など、さまざまな条件が仕上がりに関係します。
だからこそ、パティシエは生地を見ます。
「この硬さなら大丈夫」
「もう少し卵を加えよう」
「焼き上がりをもう少し見よう」
そんな判断を積み重ねながら、一つのお菓子を作っていきます。
製菓の技術とは、決められた数字を守ることだけではありません。
材料の状態を見て、その日の生地に合わせて調整すること。
パータ・シューは、そんなパティシエの感覚が表れやすい生地の一つです。
いつものシュークリームを、少し違う目で
シュークリームを食べるとき、私たちは中のカスタードクリームや生クリームに目を向けがちです。
でも、そのクリームを包んでいる生地にも、たくさんの工夫があります。
なぜ空洞になるのか。
なぜ丸く膨らむのか。
なぜ外側は香ばしく、中は軽いのか。
その背景には、水分、小麦粉、卵、油脂、加熱、そしてパティシエの技術があります。
シュークリームは、ただ「膨らませた生地」ではありません。
水分と加熱による変化を利用して空間を作り、その空間をクリームで楽しむお菓子です。
そう考えると、いつものシュークリームが少し面白く見えてきませんか。
まとめ
パータ・シューは、シュークリームやエクレア、パリ・ブレストなどに使われる代表的な洋菓子の生地です。
特徴は、焼成によって内部に大きな空洞が生まれること。
その背景には、生地中の水分が水蒸気となって膨張することに加え、生地中の気泡や、加熱によって生地が構造を形成することなどが関係しています。
また、卵を加える量や混合の状態によって生地の性質が変わるため、パティシエはレシピの数字だけでなく、生地の硬さやツヤ、絞ったときの状態などを見ながら調整します。
身近なシュークリームの中には、材料の性質と製菓技術が詰まっています。
次にシュークリームを食べるときは、ぜひ一度、中のクリームだけでなく、その「空洞」にも注目してみてください。
そこには、パータ・シューならではの面白さがあります。
参考文献・参考資料
・大喜多祥子・山田光江「シュー生地の卵混合時の撹拌程度が膨化に及ぼす影響」『調理科学』
J-STAGE「シュー生地の卵混合時の撹拌程度が膨化に及ぼす影響」
・大喜多祥子・山田光江「シュー生地の卵液混入攪拌時の温度が膨化に及ぼす影響」『日本家政学会誌』
J-STAGE「シュー生地の卵液混入攪拌時の温度が膨化に及ぼす影響」
・大喜多祥子・山田光江・遠藤金次「小麦粉成分がシュー生地の均質化と膨化に及ぼす影響」『調理科学』
J-STAGE「小麦粉成分がシュー生地の均質化と膨化に及ぼす影響」

