卵は、私たちにとってとても身近な食品です。
朝食の目玉焼きや卵焼き、ゆで卵など、普段の食生活でもよく使われています。
そして、私たちパティシエにとっても、卵は非常に身近な食材です。
スポンジケーキ、カスタードクリーム、プリン、シュー生地、焼き菓子など、卵を使う洋菓子は数え切れません。
では、なぜ卵はお菓子作りにこれほど多く使われるのでしょうか。
その答えは、卵が「栄養を含む食品」であるだけではなく、製菓材料として非常に多彩な性質を持っているからです。
今回は、卵を二つの視点から見てみます。
一つは、栄養という視点。
もう一つは、パティシエという視点です。
そして最後に、この二つの視点を一つにつなげて、「卵という食品」を考えてみます。
卵を「栄養」という視点から見てみる
まずは、パティシエという立場をいったん横に置いて、卵を一つの食品として見てみましょう。
文部科学省の食品成分データベースによると、鶏卵の全卵・生は、可食部100gあたり、たんぱく質12.2g、脂質10.2gを含みます。また、ビタミンDは3.8μgです。
この数字からも、卵にはたんぱく質だけでなく、脂質やビタミンDなど、複数の栄養素が含まれていることが分かります。
卵を「たんぱく質の食品」とだけ考えるのではなく、さまざまな栄養素を含む食品として見ることができます。
これは、これまでLumiaで紹介してきた記事ともつながっています。
これらを一つずつ見ていくと、それぞれ別々の栄養素のように感じます。
ところが、卵という一つの食品を見ると、それらの栄養素の話がつながってきます。
これが、食品から栄養を考える面白さです。
卵の栄養を考えるときに大切なこと
ここで注意したいのが、「卵は○○に良い食品」と単純化しないことです。
食品には、一つの栄養素だけが含まれているわけではありません。
卵にも、たんぱく質、脂質、ビタミン類、ミネラルなど、さまざまな成分が含まれています。
また、同じ卵でも、生卵、ゆで卵、炒り卵など、調理方法によって食品成分表上の値も異なります。例えば、鶏卵の全卵・ゆででは、可食部100gあたりのたんぱく質は12.5g、脂質は10.4gとされています。
そのため、食品の栄養を考えるときには、
「この食品には何が含まれているのか」
だけでなく、
「どのような食品として、どのくらい食べるのか」
という視点も必要になります。
Lumiaでは、特定の食品だけを食べることを勧めるのではなく、食品に含まれる栄養素を知り、食生活全体を考えるための知識を届けていきたいと考えています。
ここからは「パティシエの目」で卵を見る
ここまでは、栄養という視点から卵を見てきました。
ここからは、視点を変えます。
私は23年間、パティシエとして洋菓子の製造に携わってきました。
その立場から卵を見ると、卵は単なる「食品」ではありません。
製菓の仕上がりを左右する重要な材料です。
同じ卵でも、「何グラム使うか」だけではなく、
「卵黄なのか、卵白なのか」
「どの温度なのか」
「どのように混ぜるのか」
「どのタイミングで加熱するのか」
によって、製菓における働きが変わってきます。
ここが、栄養という視点とは大きく違うところです。
卵黄と卵白は、製菓で役割が違う
卵は大きく分けると、卵黄と卵白からできています。
そして、この二つは製菓の現場で異なる性質を利用します。
卵黄について、製菓で特に重要なのが乳化です。
乳化とは、本来混ざりにくい油と水のような成分を、細かく分散させて安定した状態にすることです。
卵黄には乳化に関わる成分が含まれているため、製菓ではクリームやバターを使った生地など、さまざまな場面でその性質が利用されています。
一方、卵白には泡立つ性質があります。
卵白を泡立てることで、空気を抱え込んだメレンゲを作ることができます。
スポンジ生地やメレンゲ菓子などでは、この性質が重要になります。
そして卵には、もう一つ重要な性質があります。
それが、加熱によって固まることです。
プリンやカスタードクリームを思い浮かべると分かりやすいでしょう。
卵は加熱によって状態が変化し、その性質を利用してさまざまな洋菓子が作られています。
つまりパティシエにとって卵は、
・乳化する材料
・泡を作る材料
・固める材料
という、非常に多彩な役割を持った食材なのです。
23年間、卵を扱ってきて感じること
ここは、23年間パティシエをしてきたからこそ書ける部分です。
卵は、レシピに書かれている数字だけでは語り切れない材料だと感じています。
例えば、同じ「卵○g」というレシピでも、実際の製菓では、卵の温度や状態、混ぜ方、ほかの材料との組み合わせによって、生地の状態が変わってくることがあります。
特にスポンジ生地のように卵を泡立てて作るものでは、泡立ての状態を見ながら作業することが重要です。
カスタードクリームでも、ただ卵を加熱すればよいわけではありません。
加熱の状態を見ながら、滑らかなクリームへ仕上げていきます。
こうした部分は、食品成分表に数字として表れるものではありません。
栄養の世界では「卵」という食品。
製菓の世界では「状態変化を利用する材料」。
同じ卵でも、見る人によって見えてくるものが違います。
これが、私がパティシエとして卵を面白いと感じる理由の一つです。
卵白の「泡立つ性質」が洋菓子を変える
パティシエにとって、卵白の起泡性は非常に重要です。
卵白を泡立てると、空気を取り込んだ泡の集合体になります。
メレンゲは、その代表例です。
そして、このメレンゲを利用することで、さまざまな菓子の食感や形を作ることができます。
例えば、
スポンジ生地。
メレンゲ菓子。
ムース。
一部の焼き菓子。
などです。
もちろん、それぞれの菓子では材料や製法が異なります。
しかし、「卵白を泡立てて空気を抱え込ませる」という性質が、製菓の基本技術の一つになっていることは共通しています。
栄養成分表を見ているだけでは分からない、卵のもう一つの顔です。
卵黄の「乳化する性質」も製菓では重要
一方、卵黄にも製菓に欠かせない性質があります。
それが乳化です。
洋菓子では、水分と油脂を組み合わせる場面が数多くあります。
そのとき、卵黄が持つ乳化に関わる性質を利用することがあります。
例えば、クリームや生地などです。
ここでも重要なのは、
「卵黄にはこの栄養素がある」
という話だけではありません。
パティシエは、
「卵黄にはこういう性質があるから、この製法で使う」
と考えます。
これが、栄養から見る卵と、製菓から見る卵の違いです。
そして、栄養と製菓がつながる
ここまで来ると、最初に話した「二つの視点」がつながってきます。
卵は、栄養という視点から見ると、さまざまな栄養素を含む食品です。
一方、パティシエの視点から見ると、
乳化・起泡・凝固などの性質を持つ製菓材料です。
この二つは、まったく別の話のように見えます。
しかし、どちらも「卵」という一つの食品を見ています。
だからこそ私は、食品を一つの方向からだけ見る必要はないと思っています。
「食品」を知ると、お菓子の見え方も変わる
例えば、ケーキを食べるとき。
これまでは、「おいしいケーキだな」というだけだったかもしれません。
しかし、卵について少し知ると、
「このスポンジは卵の泡立ちを利用しているのかな」
「このクリームは卵黄の性質を利用しているのかな」
と、違った見方ができるようになります。
牛乳や生クリームについて知れば、
「このクリームには乳製品がどう使われているのだろう」
と考えられます。
カカオについて知れば、
「このチョコレートはどんなカカオを使っているのだろう」
と興味が広がります。
ナッツについて知れば、
「この焼き菓子には、どんなナッツが使われているのだろう」
と気になります。
つまり、
食品を知ることは、お菓子を知ることにもつながります。
そして、お菓子を知ることが、食品や栄養について考えるきっかけにもなります。
これが、Lumiaで大切にしていきたい考え方です。
卵から「乳製品」へ
今回、卵について見てきました。
ここで、パティシエにとってもう一つ欠かせない材料群があります。
それが、乳製品です。
牛乳。
生クリーム。
バター。
チーズ。
ヨーグルト。
どれも洋菓子に欠かせない材料です。
そして栄養という視点から見ると、カルシウムやたんぱく質など、これまでの記事で取り上げてきた栄養素ともつながります。
前記事では「カルシウム」という栄養素から乳製品を見ました。
次は逆に、乳製品という食品から、製菓と栄養を見てみる。
そんな視点に変えてみたいと思います。
卵から始まる「食品を知る」という考え方
今回の記事では、卵を一つの食品として考えてきました。
栄養という視点から見ると、卵にはたんぱく質や脂質、ビタミンDなど、さまざまな栄養素が含まれています。
一方、パティシエの視点から見ると、卵は乳化、起泡、凝固などの性質を利用する重要な製菓材料です。
この二つの視点を合わせると、
「卵は栄養を含む食品であり、同時に洋菓子を作るための機能的な材料でもある」
という、卵の別の姿が見えてきます。
そして、ここからがLumiaでやっていきたいことです。
卵。
乳製品。
カカオ。
ナッツ。
小麦。
果物。
砂糖。
パティシエにとって身近な材料を、一つずつ取り上げていきます。
製菓の視点だけでもありません。
栄養の視点だけでもありません。
「パティシエの目」と「栄養の目」。
その二つの視点から食品を見ることで、いつも食べているものが少し違って見えてくるかもしれません。
まとめ
卵は、私たちの身近な食品の一つです。
栄養面では、たんぱく質や脂質、ビタミンDなど、さまざまな栄養素を含んでいます。
一方、パティシエにとって卵は、単なる食品ではありません。
卵黄の乳化に関わる性質。
卵白の起泡性。
加熱による凝固。
こうした性質を利用して、スポンジケーキ、メレンゲ、カスタードクリーム、プリンなど、さまざまな洋菓子が作られています。
つまり卵は、
栄養という視点では「食品」
製菓という視点では「重要な材料」
として見ることができます。
そして、この二つの視点を合わせることで、食品についてより立体的に考えられるようになります。
Lumiaではこれからも、パティシエにとって身近な食品を取り上げながら、
「これは製菓ではどんな材料なのか?」
そして、
「栄養という視点では、どんな食品なのか?」
という二つの問いを大切にしていきます。
次回は、洋菓子に欠かせないもう一つの材料、
「乳製品」
について考えていきます。
なお、卵の栄養成分については文部科学省の食品成分データベースに基づきました。
同データベースでは鶏卵・全卵・生100gあたり、たんぱく質12.2g、脂質10.2g、ビタミンD 3.8μgなどが掲載されています。
食事摂取基準については現在「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が令和7〜11年度の5年間使用されるものです。

