お菓子の生地をオーブンに入れると、ふんわりと膨らんでいきます。
前回は、卵やメレンゲなどに取り込んだ「空気」を利用して生地を膨らませる仕組みについて紹介しました。
では、泡立てて空気を入れなくても膨らむお菓子は、どうやって膨らんでいるのでしょうか?
その代表が、ベーキングパウダーなどの「膨張剤」です。
今回は、化学反応によって発生したガスを利用してお菓子を膨らませる仕組みを、「科学的膨張作用」という視点から見ていきます。
「科学的膨張作用」とは?
今回の記事では、膨張剤などの化学反応によってガスを発生させ、そのガスを利用して生地を膨らませる仕組みを「科学的膨張作用」と呼びます。
これも「空気的膨張作用」と同じく、この記事シリーズの中で分かりやすく整理するための呼び方です。
代表的な材料が、ベーキングパウダーです。
ベーキングパウダーを生地に加えて加熱すると、成分の反応によって二酸化炭素などのガスが発生します。
そのガスが生地の中に気泡を作り、加熱によって気泡が膨張することで、生地全体が持ち上がっていきます。
つまり、
化学反応でガスを作る → 生地の中に気泡ができる → 加熱によって気泡が膨らむ → 生地が膨らむ
という流れです。
ベーキングパウダーは「膨らませるガス」を作っている
ベーキングパウダーを見ると、白い粉なので、それ自体が生地を押し上げているように感じるかもしれません。
しかし、実際に重要なのは、その粉が反応することで生まれる「ガス」です。
ベーキングパウダーには、ガスを発生させるための成分が組み合わされています。
生地に水分が加わったり、加熱されたりすると反応が進み、二酸化炭素などのガスが発生します。
発生したガスは生地の中に取り込まれ、細かな気泡を作ります。
その気泡が大きくなれば、生地も一緒に押し広げられます。
そのため、ベーキングパウダーを使ったお菓子では、「どれだけガスを発生させるか」だけでなく、「発生したガスを生地の中でどう保持するか」も重要になります。
ガスが発生するだけでは、お菓子は膨らまない
ここは、パティシエの視点では特に重要なところです。
膨張剤からガスが発生しても、そのガスがすぐに生地の外へ逃げてしまえば、生地は十分に膨らみません。
生地の中にできた気泡を保持しながら、加熱によってその気泡を成長させる必要があります。
小麦粉などによって作られる生地の構造や、卵・油脂・糖などの材料も、最終的な膨らみ方や食感に関係します。
つまり、膨張剤だけが頑張っているわけではありません。
「ガスを発生させる材料」と「そのガスを受け止める生地」
この両方がそろって、初めてきれいな膨らみにつながります。
「空気的膨張作用」と何が違う?
前回紹介したパータ・ジェノワーズなどでは、泡立てによって生地の中に空気を取り込みました。
一方、ベーキングパウダーを使う場合は、化学反応によって新しくガスを発生させます。
ここが大きな違いです。
空気的膨張作用では、
空気を取り込む → 加熱する → 気泡が膨張する
という流れが中心になります。
科学的膨張作用では、
化学反応を起こす → ガスが発生する → 気泡ができる → 加熱によって膨張する
という流れになります。
どちらも最終的には「気泡」が大きくなることで生地を膨らませますが、その気泡がどこから来たのかが違うのです。
身近なお菓子にも使われている
ベーキングパウダーを使うお菓子は、私たちの身近にもたくさんあります。
たとえば、マフィン、カップケーキ、スコーン、焼き菓子などです。
これらのお菓子を作るとき、「ベーキングパウダーを入れれば勝手に膨らむ」と考えてしまいがちです。
しかし、実際の製菓では、生地の状態や材料の配合、混ぜ方、焼成条件などによって仕上がりは変わります。
同じ量の膨張剤を使っても、いつも同じように膨らむとは限りません。
だからこそ、パティシエにとって膨張剤は「入れれば終わり」の材料ではありません。
生地全体とのバランスを考えて使う材料なのです。
「膨らむ」を科学すると、お菓子作りが面白くなる
お菓子が膨らむ理由を考えると、普段何気なく使っている材料にも、それぞれ役割があることが分かります。
ベーキングパウダーはガスを作る。
生地はそのガスを受け止める。
加熱によって気泡が成長する。
そして、生地が固まることで膨らんだ形が残る。
こうして考えると、オーブンの中で起きていることが少し見えてきます。
「膨らませる材料」を入れるだけではなく、**「発生したガスをどう生地の中に残し、どのように膨らませるか」**まで考えることが、製菓では大切なのです。
まとめ
今回の「科学的膨張作用」を簡単にまとめると、
化学反応でガスを発生させる → 生地の中に気泡ができる → 加熱によって気泡が膨張する → 生地がその状態を支える
という仕組みです。
前回の「空気的膨張作用」との大きな違いは、気泡のもとになるガスをどこから得るかということ。
空気を取り込むのか。
それとも、化学反応によってガスを作るのか。
同じ「膨らむ」という現象でも、その中では違ったことが起きています。
そして、お菓子が膨らむ仕組みは、これだけではありません。
パンや一部のお菓子では、酵母などの微生物の働きによってガスを作り、生地を膨らませる方法もあります。
次回は、微生物の働きを利用する「生物的膨張作用」について見ていきます。
参考文献・参考資料
・厚生労働省「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」
膨張剤について、パン・菓子などの製造工程でガスを発生させ、生地を膨張させる添加物として定義されています。
厚生労働省:食品衛生法に基づく添加物の表示等について
・厚生労働省「硫酸アルミニウムカリウムと硫酸アルミニウムアンモニウムの用途の解説」
ベーキングパウダーの基本的な仕組みや、炭酸ガスを発生させて生地を膨張させる働きについて解説されています。
厚生労働省:硫酸アルミニウムカリウムと硫酸アルミニウムアンモニウムの用途の解説
・小西 旭「ベーキングパウダー合成膨脹剤」『調理科学』8巻3号、1975年、126-131頁
ベーキングパウダーの種類やガス発生の仕組み、製菓・焼き菓子などへの利用について扱った資料です。
J-STAGE:ベーキングパウダー合成膨脹剤
・齊藤 紅・簑島 良一・椎葉 究「ミョウバンとその代替化合物の添加がパンケーキの膨張と構成タンパク質に与える影響」『日本食品科学工学会誌』63巻4号、2016年、170-175頁
ベーキングパウダーなどの膨張剤がパンケーキの膨化に与える影響について検討した研究です。
J-STAGE:ミョウバンとその代替化合物の添加がパンケーキの膨張と構成タンパク質に与える影響
・大木田幸子・山田満恵・遠藤金次「Effect of Preparing Conditions of Cream Puff Paste on the Expansion During Baking(Part 1)」『日本食品科学工学会誌』40巻5号、1993年、370-377頁
シュー生地の調製条件と焼成時の膨張について扱った研究で、生地への空気の混入や生地の状態と焼成後の体積との関係が検討されています。
J-STAGE:Effect of Preparing Conditions of Cream Puff Paste on the Expansion During Baking



